548 福山雅治といえばイントロクイズである

離れて暮らしている息子が「レゴが欲しい」と言ってきた。
子供の頃遊んだLEGOブロックで遊びたくなったから送ってくれと言うのだ。
送ってくれと言われても、季節はずれの衣服をしまっておくような半透明のケースふたつと、形状さまざまなタッパーウェア四個にびっしり入っていて、けっこうな大荷物。
妻はどうしようかと迷っていたが、日曜日、爽やかにカラッと晴れていたこともあり、ドライブをかねて車で配達してやることにした。

搬送するケースには、ハリーポッターのお城、忍者屋敷、海底秘密基地などのブロックが揃っているはずだ。もう絶対組み立てられないが。
ブツを積み込もうと移動中に、タッパーのフタの閉めがあまいところから小さなものがポロリと落ちた。
なんだ?
拾い、老眼を近づけ、部分的にクリアパーツになっているちいさなちいさなそれをよく見る。
おおこれは。
ライトセーバー。
そうそう、スターウォーズのLEGOも買ったっけ。クリア部分が緑だからジェダイのだな。
などという無駄な感慨とともに私たち夫婦を乗せた日産セレナは一路幕張へ。

息子のアパートに着き、お届けの荷物を「ほらよ」と渡し、下の子が欲しがってたPSP本体を巻き上げ、なぜか同居している女子一名も加え四人でお茶した話は本題から逸れるので割愛。話は帰りの車内へ。

強度近視のうえ強度方向音痴の私はカーナビの言う通りに車を走らせた。
なぜか来た時とは違う中途半端なところで高速を降ろされ、そのまま一般道へ。
よくわかんないけど渋滞の道をそのまま走る。方向音痴は自分よりカーナビを信じるのだ。

このひどい渋滞の原因は踏切であると予言した私の前に高架線路が現れたり、前方の道がすぐ詰まってなかなか通過できない交差点を「ほら、すぐ先に信号があるからあそこでまた詰まっちゃうんだよ、これじゃ進まないよ、ダメだよこの作り」と言いながら通過した交差点のすぐ先にパトカーと事故車が停まってたりと、予想外の事態が続くが、気を取り直してラジオをつける。
しばらくAMを聴いていたが面白くなかったのでFMに切り替えた。
聞こえてきた声は、そう、福山雅治(やっと本題か)。

ちょうどエンディングだったようで、福山雅治がちょっぴりしゃべっただけで番組は終わった。
妻が言った。
「福山雅治?」
「そう。福山雅治」
「ふふふ。フクヤマのラジオ」
「ふふふ、ツバサとイントロクイズ、んふふ」

最近私は思うのだが、人生でかけがえのないものがあるとしたらそれは、自分と同じ思い出を持つ誰かだ。肉親や家族であれ、友人であれ、会社の同僚であれ、近所のおばさんであれ。
相手のことを好きでも嫌いでも、場合によっては憎んでいたとしても、そして思い出自体がどんなに他愛ないものでも、それはかけがえのない得難い存在なのだ。
想像してごらん、同じ思い出を持つ者が誰もいない世界でひとりぼっちで生きていくことを。なんて話は今度イヤってほどしてやるとして。

私と妻の、他愛のない、福山雅治にまつわる思い出はこうである。
4、5年前だったと思う。娘を連れ、プールに行った帰りの車中。娘は泳ぎ疲れて眠っている。
やはり日曜日の夕方、やはりラジオをつけた。FM。誰かがしゃべっている。
「誰?」
「うーん、聞いたことあるような無いような」
やがてラジオの会話から福山雅治であることが判明。番組は福山雅治が聴取者の望みを叶えてくれるコーナーに。
今日の聴取者はツバサくん。幼稚園児くらいの男の子。
ツバサくんの望みはフクヤマとのイントロクイズ勝負。
「ツバサくん、イントロ当ては自信ある?」
「うん」
「勝てると思う?」
「うん」
そして始まるイントロクイズ。
出題はすべて福山雅治の曲。大人げなく2連勝する福山雅治。そこで提案。
「ツバサ、これ自分の曲だからさぁ、次はツバサ先に答えていいよ、な」
「うん」
そしてかかるイントロ。
ツバサ沈黙。イントロ終了。
ツバサ沈黙。
「ツバサ?」
「なに?」
「今の曲わかった?」
「わかった」
「何?」
「いいよ」
「ツバサ答えていいよ、今の曲なに?」
「いいよぉ」
結局ツバサは、答えはわかっていると言い張りながら「いいよぉ」と、一問も答えないままコーナー終了。

この放送があまりに面白かったので、我が家では福山雅治といえば歌手でも俳優でもガリレオでもなく、「ツバサとイントロクイズした人」という肩書きで通っている。そしてこの一件だけで、歌とかほとんど知らないけど我が家での福山雅治の好感度はけっこう高いのだ。
あ、でもドラマ「ウォーターボーイズ」の主題歌は良かったなぁ、好きだったなぁ、なんて、後から思い出す程度の歌の優先順位なのでした。
福山雅治さん、並びにファンの皆さん、なんかそんな印象でごめんなさい。この場を借りてお詫び申し上げます。

ところがしかし。
記憶を頼りに上の文章を書いた後で気になったので「福山雅治 ラジオ ツバサ イントロ」で検索してみたら、どうも事実は微妙に違ってたみたい。
そもそも福山雅治にイントロクイズを挑んだのはツバサくんじゃなかったようです。
すいません長々といいかげんな話を読ませちゃって。
まぁでもほら思い出だから。ね。こういうこともあるよね。事実と違う、なんてことはさ。
大事なのは事実じゃなくて思い出である、ってさっき言ったでしょ?言ってないっけ?まあいいや。
だいたいそのくらいでいいんだよってお話しでした。

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