以前NHKで放送されたのを録画していたアニメ「よだかの星」を観た。傑作。こりゃすごい。
なんだけど今日はアニメの話ではなくて「よだかの星と僕」みたいなお話。
父は昨年他界したが、母は元気に富士山のふもとで暮らしてる。
どのくらい元気かというと、時々ひとりで高速バスに乗って東京まで来ちゃうくらい元気。
息子の私が毎日埼玉から東京まで行くのがイヤでイヤでしょうがないのを考えればどのくらい元気かわかるってもんだ。
なんだけど今日は母元気の話じゃなくて「よだかの星と僕と母と父(ちょっぴり兄)」みたいなお話。
その今でも元気な母は若いころから読書好きで、二人の息子も読書で幸せになれると信じ、毎晩寝る前の我が子に本を読んで聴かせるのを習慣としていた。

ある夜。
母が選んだのは宮沢賢治の「よだかの星」だった。
「今日は「よだかの星」を読もうね」
母が言った。兄と私はどんな話かとふとんの中でワクワクしていた。
母が「よだかの星」を読み始める。
「よだかは、実にみにくい鳥です」
「よだかっていうのはなぁ」
母の後ろで声がした。
「よだかっていうのはなぁ」
もう一度声がした。
父だった。
父は夕方勤めから帰ってくると酒を飲み、夕食を食べながら酒を飲み、食後に酒を飲み、やがてごろりと眠り、突然起き上がって「眠くなった」と言ってまたごろりと眠るような毎日を過ごしている人で、母が幼い兄弟に本を読んでいても特に口を挟むような人ではなかった。
それがこの日は違った。
「よだかっていうのはなぁ」
いつもと違う父の様子に、母も本を膝におろし、父の方を振り向いている。
「夜の街で働く女のことをよだかっていうら」
母と兄弟は黙って父の言葉に耳を傾ける。藍より青いブルーカラーである父が知識的なことを口にするのは本当に珍しかったのだ。
「夜の街って言ってもチビら(私と兄のこと)にはわかんにゃあな。そういう女をよだかっていうさぁ。よだか。よだか?よたか。よたか?よたかって言うな。本当はよたかだな」
父はそれだけ言うとごろりと横になり、いびきをかき始めた。
「よだかは、実にみにくい鳥です」
母は何事もなかったように「よだかの星」を読み始めた。

眠りかけの脳に母の読み聴かせと父の言葉を混入インプットされた私は、その後長いあいだ「よだかの星」というのは、夜にいかがわしいお仕事をしているよだかだかよたかだかいう鳥が、その職業ゆえにいじめにあってでもそれはそれで生きていてなんだかわかんないけど星をめざして飛んでっちゃうお話だと思っていた。

マイナーな劇団のお芝居みたいだ。

傑作アニメを観てそんなことを思い出しましたとさ。

 

blinkjitu
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