少なくとも「9.11」テロの背後にいた人々は、「狂信者」という一語でひとくくりできるような記号ではなく、私と同じ人間だったようだ。これはそういう本である。

(『倒壊する巨塔』下巻「訳者あとがき」より)

ドラマ版が面白かったので原作にもチャレンジのその下巻(上巻感想はこちら→『倒壊する巨塔〈上〉―アルカイダと「9・11」への道』を読んだら)。



『倒壊する巨塔〈下〉―アルカイダと「9・11」への道』
ローレンス ライト(Lawrence Wright )著
平賀 秀明 翻訳  白水社 刊

 

上巻では、ドラマでは描かれなかったアルカイダ結成と初期活動に至るまでの思想や精神の源から始まる長い期間のエピソードが緻密に語られましたが、下巻ではそれらが 9.11 同時多発テロへ向けて集約されていきます。
ドラマで中心的登場人物だったジョン・オニールやアリ・スーファンら、アメリカ側のFBI、CIAの人物も登場して、緊迫感が増していきます。

コーランで自殺が禁じられているのもかかわらず「自爆攻撃」が正当化されるのはなぜか?
タリバンが恐ろしいほどの早さでアフガン全土を席巻したのはなぜか?
ウサマ・ビンラディンはなぜアメリカに宣戦布告したのか?
CIAは9.11テロ実行犯に関する有力な情報を入手していながらなぜそれらをFBIと共有できなかったのか?

ひとつひとつていねいに語られていき、なるほどと納得するやらそんな理由かよ、と驚くやら。
ちなみにCIAが情報共有しなかった理由のひとつには、極秘情報は組織外に出た時点で極秘情報でなくなり価値を失う、という価値観があったからだと書かれています。
自組織の財産の価値を失わないことが何より優先されたのです。
これって、会社の部署間とか、場合によっては個人の間でもおこりそうなことで、自分が何か判断したり行動したりする時にどういう範囲で考えているか意識するのは大事なのかな、と思いました。

FBIのジョン・オニールは既婚者で子供がいるにもかかわらず土地土地に女を作り、大事な資料を紛失し、強引なやり方であちこちで摩擦を起こすような欠点の多い男ですが、もしもオニールにもっと権限を与えて思うようにやらせていたら同時多発テロを防ぐ目もあったのではないかと思わせるエピソードが続きます。
これも、細かい欠点をせっせとつついて、大きな働きをする人の足を引っ張るというどこにでもありそうな話ですね。スケールをわきまえてものごと考えろよ、と。

本書は9.11 同時多発テロ当日の様子とその後の捜査を描いて終わります。
9月11日にジョン・オニールがどこで何をしていたか。「運命」というのはあるんだな、と思いました。

緻密な取材を重ね、事実と信じられるエピソードを重ねて凄みを感じる本ですが、最後の方で語られる筆者の事件に対する解釈を読んで泣きそうになりました。少し長いけど引用しますね。

世界貿易センターで命をなくした人々は、いろいろな意味で “世界議会” の構成員だった。死者たちの国籍は62カ国におよび、この世のほとんどすべての人種・宗教グループを網羅していた。元ヒッピーの株式仲買人、ニューヨーク市消防局付きのゲイでカトリックの神父、日本人のホッケー選手、エクアドル人の料理長、バービー人形の収集家、菜食主義の書道家、パレスチナ人の会計士……。彼らがこの世に生を受け、その身にまとった千差万別の生き方は、ひとりの命を奪うものは世界をも破壊するというコーランの教えの正しさを証明するものだった。アルカイダはアメリカを狙って攻撃をしかけ、人類全体に打撃を与えたのである。

(『倒壊する巨塔』下巻 「第20章 暴かれた事実/啓示」より)

筆者は2001年9月11日のテロ当日にニューヨーカー誌の編集長にこういう仕事(本書の執筆)をしたいのだがと打診し、その日から5年間かかりきりになったそうですが、本書を読み終えて思ったのは、「5年あればこんなすごいものが書けるんだ」でした。
そのくらい膨大な、筆者もあとがき的に苦労話を書いていますが、掴み難い事実を事実と信じられるまで取材を重ねて取捨していることを思うと、5年で書き上げるのって驚異的に思えます。
取材活動をスタートした時には筆者の前には設計図も道もなく、果てしない荒野が広がっていたのではないでしょうか。

冒頭にも一部引用た「訳者あとがき」は本書の内容と執筆に関してきれいにまとめている上に、翻訳時の表記についても触れられていて、興味深かったです。

大物ですが、適当に書きとばしたような本(やブログ)を読んでる時間があったらぜひ本書を読むようおすすめします。

まずはドラマからいかがでしょう?↓

 

ドラマの感想こちら→必見の海外ドラマ『倒壊する巨塔-アルカイダと「9.11」への道』“THE LOOMING TOWER” 全10話を観たら



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