ナオミ・クライン 著『NOでは足りない―トランプ・ショックに対処する方法 』 “NO IS NOT ENOUGH Resisting Trump’s Shock Politics and Winning the World We Need” by Naomi Klein を読んだら

『ショック・ドクトリン』の著者、ナオミ・クラインNaomi Kleinの新刊『NOでは足りない―トランプ・ショックに対処する方法 』の感想です。
『ショック・ドクトリン』については「オトーラの書classic」で書いてます。
私の感想はこちら→ショック・ドクトリン ナオミ・クライン (著)  幾島幸子・村上由見子(訳)岩波書店 
私が読んだのは東日本大震災の年の暮れだったんですね。

ナオミ・クライン 著『NOでは足りない―トランプ・ショックに対処する方法 』


刊行年を見ると、ひとつの著作には7年かかっているナオミ・クラインが、その緊急性から、2014年発行の前著『これがすべてを変える』(私は未読です)から3年後に発行したのが本書。
「通常6年かけてリサーチをして書くところ、数カ月で書き上げた」と本文中で書いています。そして「できるだけ簡潔で、話し言葉に近い文体で書くことを心がけた」とも。

量も前二作の半分ほどで、とにかく、急いで読みやすいものを書き上げることを優先させたようです。
量を減らしても刊行を急いだのは、2016年11月にドナルド・トランプが第45代アメリカ合衆国大統領に選出されたこと(就任は翌年1月)がその理由です。

序章の書き出しが、

ショック。

もう、なんでこうなっちゃったの?みたいな書き出しで始まります。
以降、トランプ政権の本質みたいな話になっていきます。

トランプが地球温暖化を否定するのは政権にエクソンモービルと利益を共にしている人物がいて、トランプとも利害が一致しているからだとか、そのエクソンモービルは長年地球温暖化の研究を続けているが、それは地球温暖化を食い止めるためではなく、地球温暖化がビジネスにどんな影響があるかを研究するため(極地の氷が溶けると原油採掘のコストが下がり中東の産油国に対する競争力が上がる、というようなこと)だとか、うんざりしちゃうような話が続きます。
ただし、トランプ政権は人の出入りが激しくて、国務長官として名前を挙げられているエクソンモービルの前CEOレックス・ティラーソンは2018年3月に解任されたりしている。動きが早くて激しいので反トランプ論はあっという間に古くなってしまいがちです。これも作戦でしょうか?
じっくり書かれる書籍は絶対に必要ですが、スピードがあるメディアと緊密な連携がとれればその価値はもっともっと上がるのではないかと思います。

本書では、トランプ(とその一族、と利害を共にする一派)のたくさんありすぎる問題点がわかりやすく書かれていて、いちいち納得だですが、その中でも大きく、緊急性があると筆者が考えているのが地球温暖化による気候変動です。
気候変動はあるポイントを越えるともう取り返しがつかないからです(もうそのポイントは越えていて、これからはそれが加速していく段階だと言っている人もいます)。

しかし、気候変動で大きな災厄が世界を襲っても富裕層は痛くもかゆくもないどころか、ハリケーンが向かってくるとわかれば自分はとっととヘリで逃げて、ハリケーンで襲われた地域でどんな金儲けができるか考えるのです。そのわかりやすい代表が第45代アメリカ合衆国大統領ドナルド・トランプなのです。

しかし。と筆者は言います。
トランプは、トランプ的なものは、いきなり生まれてきたものではないぞ、と。
もうずっとそうだったではないか。これまで育てられた価値観の集約がドナルド・トランプではないか、と。
トランプは突然変異のミュータントとしてではなく、そういう、強欲さが支配する世界が生み出した「帰結」ではないか、と。
トランプ大統領はあまりにその価値観が集約された存在で、強欲を隠す必要もないポジションに自分を置いているために象徴的になっているけれど、ことはドナルド・トランプという一人の人間を悪役にして非難すれば済むようなことではないのだよ、と。

ここで本書のタイトルの意味が語られます。
「NOでは足りない」。
トランプにNOと言いたいのなら、それだけでなくYESを示せ、と。NOと言っているだけでは間に合わないよ、と。
気候変動はすべての人に(本当は富裕層にも)関わる問題だけれど、世界には他にも多くの問題があり、弱者が迫害されて生きづらいことがたくさんあります。トランプ的なものは、それらの迫害がわの多くに見られます。
「トランプ的なもの」が弱いものを追い詰めることで力を増してゆくのであれば、すべての「トランプ的なもの」を否定する者たちは、お互いにお互いの問題を等価で扱い、連携して解決のために同等のエネルギーを注ぐべきだと筆者は主張し、自らが関わるその活動も紹介しています。

そして。本書の最後では、その活動の成果である「リープ・マニフェスト」が紹介されます。
「リープ(跳躍)」と名付けられたのは、今までの価値観の延長ではとても間に合わない、跳躍することが必要、ということからだそうです。
「リープ・マニフェスト」が目指す世界は、

地元経済を再建し、企業活動を規制し、環境に害を及ぼす採取/搾取プロジェクトを阻止しようとする私たちの取り組みを妨げるあらゆる貿易協定に終止符を打つ

わが子を今日養うために、わが子の明日を脅かすような仕事に就かざるをえない人が一人もいない社会

そして、そんな社会のための資金調達は、

化石燃料への補助金撤廃、金融取引税の導入、資源採掘ロイヤリティの引き上げ、法人税および富裕層増税、累進的炭素税の導入、軍事費削減など

で調達可能としています。

とにかくリープなので、このマニフェストだけ読むと戸惑うような箇所もありますが、本書の最後まで読み進めた読者には共感されると思います。むしろもっと跳躍しなきゃ、と思うかもしれません。

ドナルド・トランプ(とトランプ的なもの)は、多方向に問題を発生させるため、その問題点を全面的に否定していく本書は、感想を書くのも難しくて、わかりにくい文章になってしまいました。本書の感想を本気で書こうとしたら腰を落ち着けて何回かに分けないと書けないだろうな、と思いました。そういう本です。でも読みやすい本ですよ。

最後に、別の著者による、もうすぐ刊行されるトランプに関する本を紹介します。

FEAR 恐怖の男 トランプ政権の真実 ボブ・ウッドワード (著), 伏見 威蕃 (翻訳) 

ボブ・ウッドワードというのは、映画にもなった『大統領の陰謀』を書いた人で、ウォーターゲート事件を報じて、ニクソンを任期途中に退陣に追い込んだ人ですね。かなり辛辣なことが書かれているという噂です。読みたい本ですが、この表紙、すげーな。カバーかけて読まなきゃ。

blinkjitu

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