レムというと『ソラリスの陽のもとに』“Solaris”や『砂漠の惑星』“Niezwyciężony”みたいな、渋くて堅い感じのものは読んだことありましたが、この『泰平ヨンの未来学会議』はかなり趣が違って、ドタバタブラックコメディのように始まり、しばらくそのテイストで進んでいきます(だんだん恐くなりますが)。


スタニスワフ・レム
『泰平ヨンの未来学会議〔改訳版〕』

コスタリカで開かれる未来学会議に出席することになった主人公の泰平ヨンですが、この世界ではテロが横行していて、会議会場のヒルトンホテルでも次々に騒動が起きて、人もバタバタ死んでいきます。そんな中、ヨンたち会議出席者は逃げもせず、たいして慌てるでもなく会議の準備を進めます。

『ソラリスの陽のもとに』はタルコフスキー監督で映画化されていますが、こっちはテリー・ギリアム作品みたいだな、と思って読んでいました(『未来世紀ブラジル』を思い出しました)が、訳者あとがきによると、映画化されてるんですね。
映画化名は『コングレス未来学会議』。これは小説の原題の直訳のようです。でも映画の原題は“The Congress” になってますね。ややややこしい。
監督・脚本はイスラエルのアリ・フォルマン。映画のあらすじだけ読むと原作とはかなり違うみたいですが、かなり奇妙な映画のようなので、いつか観たいと思います。
下のリンクから予告編が観られますが、こりゃ全然違うな。でも面白そう。そしてキモの部分では原作通りなのかも。

 
映画『コングレス未来学会議』

小説の話に戻りますが、未来学会議開催前のホテルでとうとう大規模なテロが発生して、ヨンたちもさすがにやり過ごすとかいうレベルではなくなり、地下の下水施設に逃げ込むことになります。
その先はもう二転三転して、それが薬物がらみだったりするから現実だか幻覚だかもわからなくなっていきます。
やがて、ヨンは地下から救出されますが、冷凍睡眠をほどこされ、遠い未来で目覚めます。
そこは一見、あらゆる問題を解決したユートピアのように見えますが、人の感情をすべて薬物でコントロールしているとんでもない世界であることがわかってきます。。
その後さらにベロンベロンと剥がれ落ちるように、現実が見えたと思ったらその下にまた現実があってさらにベロンと剥がれて、みたいな展開になっていきます。そして、ベロンとするたびに世界はどんどん恐ろしいことになっていきます。

ヨンは各段階で色々な人と会話しますが、その段階段階での世界への「違和感」を訴えるようなやり取りで、考えさせられます。でもゆっくり考えてる余裕もなく展開して、ヨンも未消化のまま混乱しますが、読んでるこちらの精神も重層化していくような不思議な経験ができます。
エピソードごとに理解しようとしないで、ガシャガシャ変わる場面にその都度反応するような読み方ができる人なら面白く読めると思います。

blinkkisi