みなさんはながらスマホとか歩きスマホとかやってないでしょうね。
私はやってます。時々、ほんの短時間ですけどやっちゃうことがあるんです。
ほんのちょっとこれだけ、とか思って触ってるんだけど気がつくと目の前に人がいたりしてね、危ないですよね、やっぱり。
以前、スマホを操作しながら駆け込み乗車しようとして電車の扉に挟まれた若い男を見たことありますが、体をよじって車内に入る間も無事車内に入ってからもずーっとスマホの操作をやめませんでした。 呆れもしましたけど、ちょっとだけ感心しましたね、バカだけど徹底したバカだな、と。
ながらスマホがいけない理由は人とぶつかって危ない、とか、周囲に迷惑をかけがち、というのも大きな理由ですが、もうひとつ、大きな大きな理由があるんです。

これは、ある、そこそこ大きな会社に勤めているOLさんが体験した話です。
彼女もスマホが大好きで、少しでも時間があるとスマホでパズルゲームをやっていました。歩いている時だろうが、満員電車の中だろうが。 自分では、危ないとか人に迷惑をかけるとかという意識は無く、人とぶつかりそうになっても相手が悪い、くらいの態度だったんです。

そのOLさんが勤めている会社は残業とかあんまり無いところなんですけど、その日は珍しく残業で、ちょっと遅い帰りになりました。
と言っても深夜というほどの時間ではなくて、駅にも道にもまだ人の姿は多くて、まっすぐ帰宅する人と、どこかで一杯やっていた人とが混じり始めるような、そんな時間帯でした。
彼女はちょっとイライラしていました。予定に無かった残業で遅くなったのと、パズルゲームで、ここしばらくクリアできないステージがあったからです。
会社から最寄りの駅までの道々、ホーム、電車内、と、ずっとパズルゲームをやり続けていました。
途中一回だけ乗換えがあるんですが、その時の移動中もスマホから目も手も離さないで歩き続けていました。
そして、今日も何度も何度もやり続けているクリアできないステージが、やっぱりまたクリアできないとわかった瞬間に、前から歩いてきた男と右肩がぶつかりました。
ぶつかった衝撃でおたがい半身になりましたが、彼女はスマホから目を離さず、操作もやめず、チッとひとつ舌打ちするとそのまま歩き去りました。
男のほうは怒るというより驚いたような顔でしばらく彼女の後ろ姿を見ていましたが、やがて立ち去りました。

自宅の最寄り駅に着いた彼女は、家への道を歩き始めましたが、やっぱりゲームを続けていました。そして、早く家に帰りたかった彼女は、いつもは通らない公園を突っ切って帰ることにしました。
小さな公園です。
砂場とブランコ、滑り台。幼児を遊ばせるような、住宅街によくある公園。
そこを斜めに突っ切ると少しだけ早く家に着くのですが、公園を出たところで少し暗い道を抜けなければいけないので、普段は避けていたのです。
今日は、残業で遅くなったのとパズルゲームが進まないイライラに押され、公園に足を向けてしまったのでした。

相変わらずスマホの操作を続け、足早に無人の公園を抜けようとしていた彼女でしたが、公園のちょうど真ん中あたりに差し掛かった時。
両肩に何かを感じたんですね。
そーっと。
誰かが後ろから両手を乗せてくるような、そんな感触。
そして。
「私にも見せて」
耳元で 声がしたんです。少しかすれたような女の声。
もうビックリして、さすがにスマホの操作はやめたんですけど、怖くて、振り向くどころかピクリとも動くことができない。声も出せない。ただスマホの画面を見続けるしかできなかったんです。
「ねぇ、私にも見せて」
また声がします。
両肩の感触も今でははっきり人間の手だとわかるくらい強くなり、十本の指が異様に長いのもわかるほどになりました。
「ねぇ、見せてったらぁ」
なぜか声が聞こえてくるのが、耳元から背中、腰あたりと、だんだん下がって行くんですが、声の位置が下がるにつれて、言い方も徐々に不機嫌な感じになっていきました。
「ねぇ、見せてって言ってるじゃない」
声は下から聞こえてくるけど両手は肩にかかったままで、その力もどんどん強くなって、押さえつけられるようになってきました。
でもその力に負けてしゃがみこんでしまったら何かとんでもないことになる。そう思って彼女は必死に両肩を押し付ける力に耐えていました。

そしてとうとう。
「こんなに見せてって言ってるじゃない!」
足元から声が聞こえてきて、そのOLさん、怖いんだけど、見ないのもそれはそれで怖くなっちゃってとうとう。
スマホの画面から目を離して。
足元を見たその瞬間!
ブワーッ!っと。
プールの底に沈んでたサッカーボールが浮き上がるような勢いでブワーッと、真っ白な長い髪を振り乱した真っ白な女の顔が目の前に飛び上がってきて、文字通り目と鼻の先に顔を近づけて、赤い口をバックリ開けて、彼女を怒鳴りつけました。
「どうして見せてくれないのよぉっ!」

そりゃもうビックリしたOLさん、声にならない悲鳴を上げてその場に両手とお尻を着いてへたり込んでしまいました。

しばらくギューッと目を閉じていたんですけど、両肩の手の感触も消え、声もしないので、恐る恐る目を開いたら、周りには誰もいなくて、公園の真ん中に一人でぽつんと座っていたんですって。
そして、右手に持っていたスマホは、へたり込んだとき地面に強くぶつけたようで、液晶画面が縦にバリンと割れていたそうです。
みなさんも、ながらスマホはだめですよ。スマホが壊れちゃうから。
いっひっひっひ。