キシワタリ天涯地 20



 

 

ズガッ!

ズガッ!ズガッ!ズガッ! 

 

ああ

 

 

 

グリッグリッ

 

あっああっ 

 

 ああ、もう…

 

 

 




え?

 え?

 

俺?

 

誰?

 

あそこ?

 

 

 どこ

どこへ?

 

 

kisidaiji

20

 

「…ママ……」

「あーちゃん、ほら、おてて、だめでしょ」

「ママママ、あれなぁに?あれ。おそらの」

「お空?おそらにあるのは雲でしょ、くーもっ」

「え、くも?あれもくもなの?」

「え?どーれ?」

 

「なんにもないじゃない。雲も無い。ほらおてて!」

「なんにもー?くももー?くももないのー?くもももー?」

 




 

 

 

「ハイ、鷺楽です」

「あ、課長、井岡です。今大丈夫ですか?」

「大丈夫じゃなきゃ出ないよ。どした?」

「いや、きのうすいませんでした遅くまで」

「いいよそんなこと」

 

「でも夜出て明日美ちゃんのところに行くはずだったんでしょ?」

「しょうがないよ、きのうは」

「ありがとうございます。助かりました。おかげで今日出なくてすみました。それだけ言っておきたくて」

「律儀だねぇきみは」

「いえいえ鷺楽さんこそですよ。でも部長とかああいう時知らん顔でホントムカつきますよねぇ。目をそらせば問題が消えてなくなると思ってる。フニャチンですよフニャチン」

「そう言うなよ。そうやって生きてきたんだよ、あの人は」

「これから明日美ちゃんの病院ですか?新しい」

「ああ、まだ東名。今トイレ寄ったとこだけど」

「明日美ちゃん、転院しても変わらずですか?」

「特に変化なし、だな。良くもならないし悪くもならない」

「でもなんでわざわざ遠くへ転院なんか」

「さあな。旭寿町から助け出された人は今年の転院でバラバラだ。百人以上いたのにな。こうやって世間が災厄を忘れるように仕向けられるのかと思っちゃうよ」

「そんな。きっと。きっといい方向に行きますよ。体は異常無いんでしょ?」

「ああ。体はな」

「だったら大丈夫。きっと良くなりますよ」

 

 

 

そうだ。体にはまったく異常は無い。
異常はないんだ。



でも。

 

心が無い



 

俺は…なぜ

 

なぜ家族といっしょにいなかったんだろう?

(御子がおられた)
(御子がおられた)

(御子のもとへ)
(御子のもとへ)

 

(御子がおられた)
(御子がおられた)

(あれは)

(あれは御子ではない)

(御子ではない)

 
(これは御子ではない)
(これは御子ではない)

(これは)

(御子ではないこれは)
(御子ではないこれは)

 

 

(御子ではないこれ わ)
(御子でわないこれわ わ)


 
「  わ  た  る 」

「お      」

「わ たるくん」

 「  おばさん?」

 






ゲ、ゲボッ


 

「ア、ア、アア、カユクナ。イゾ。オ、オ、オレノ、ア、ア」



グチャッ

「テ、テ、テ、ガ」


グチャッ

 
「テガ、ア、ア、ココカラ、コ、コ。カラ」


グチョリ

「ア、ア、ア、ア、アア、」

「オレ、ココカラ」


グチョッ!



 
グチョッ、グチョッ

「ア、ア、アカルイ、アカルイ



「アソコ」

 



「ソ、ソ、ソ、」

 
ソトダ!

つづく

キシワタリ天涯地 20 2017.04.04

→21.みこ

Horizon zone KISHIWATARI 20 2017.04.04
©Masakagemaru Terada/oto-ra.com

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