「この本は装丁で買ったなぁ」という経験はほとんど無いのですが、これは完全に装丁で買いました。
濃紺ベタの地に銀の箔押し。書名(原題、邦題)と魚のリアルな線画といくつかのコピー。帯は無し。天地と小口(背の反対側)にも印刷があります。凝ってる。
カラフルなカバーが溢れている書店の棚でひときわ目立ちます。ただ平台でないと訴求力が五分の一くらいに減ってしまいますが。

「装丁で買った」と書きましたがそれはちょっと嘘で、中身も読んでから買いました。そして出だしから引っ張り込まれたので、正しくは「装丁7:3中身」くらいだったかもしれません。
2,000円以上する本を見かけだけでポンと買うほど富豪ではありません。
話は奇妙な前置きから始まって、1906年にデイヴィッド・スター・ジョーダンという生物分類学者を襲った災難の話に移ってゆきます。
ジョーダンがその災難にどう対処したかということが語られ、ジョーダンが不屈の人であることがわかってきます。
で、この本が変わっているのは、著者のルル・ミラーがどうやらひどく傷つく経験をした直後で、ジョーダンの不屈さが自分の傷を癒すヒントになると思っているように書いていることです。
「デイヴィッド・スター・ジョーダン伝」かと思ったら「ルル・ミラー傷心日記」みたいになってる。
なるほどそういう話かと思って読んでいると風向きが変わってきて、デイヴィッド・スター・ジョーダンが不屈すぎて社会人としてちょっとどうなの?ということになってきます。
あれあれ?とさらに読み進めると「ちょっとどうなの?」どころか「デイヴィッド、それやっちゃダメだろ」みたいな話が連発、ルルも考えが変わってゆきます。
「魚が存在しない理由」は終盤に解説されます。別にルル・ミラーが捻り出した屁理屈ではなく、分類学の世界では今や常識なんだそうです。
「魚は魚」という、意識もしないくらい当たり前だったことがそうではなかったとわかって、ルルはそれなりにショックを受けますが、それに開放感も覚えます。堅いと思っていた常識がひっくり返るのなら、何にも束縛されることはないではないか、と。
なんか結論めいたことを書いちゃいましたが、340ページほどある本なので、そんな単純ではありません。あっちに行ったりこっちに戻ったりと、著者と一緒に迷いながら道を辿るような読書体験。良い本でした。読んだ後もカバーを眺めたりさすったりしてます。