天才の闇の左手

幼いころから「天才お絵かき少女」の名をほしいままにしてきたアヤであったが、苦手なものがあった。
それは「おてて」。
手を描くのを苦手としたアヤは、そもそも手を描かないでお絵かきを終了したり、ちょっとごまかして描いたりしていた。
こんなふうに。

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手を描けないという壁にぶつかったアヤは、父であり絵の師匠でもある私に相談にやって来た。

「マスター、手を上手に描くにはどうしたらよろしいのでしょうか?」

私は答えた。

「我がパダワンよ。絵の道に近道など無いと知れ。おのれの手を見つめよ。そして描け。そしてもう一度見つめよ。そして描け。その繰り返しじゃ」

「ははっ!お言葉ありがたくちょうだいいたします」

あれから幾星霜。アヤは修行を続けた。雨の日も風の日も。父の銀歯が取れた日も。

そしてきょう。
中学一年の最後の日。
美術の授業で描いた一枚の絵を持ち帰った。
この絵。

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よかろう。
もうよかろう。

もはや、わしから教えることは何もない(手を描くことに関しては)。

実物と並べてみる。

hikaku


感心するっていうか気持ち悪りーレベル。
オトーの血を引く小指曲がり族であることがよくわかる。
我が弟子アヤよ。次は目玉とか耳とか見つめてリアルに描くとよいぞ。特に耳は人によってかなり形が違う上、複雑な形をしているので、ものの形をとらえる修行にはもってこいじゃ。
でもやりすぎると友達がいなくなるから注意せよ。

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