地味なベン・ハーか?と思ったら違う種類のものだった。映画『バラバ』“Barabbas”を観たら

NHK BSの放送を録画していたものを鑑賞。映画『バラバ』。
バラバというのは人の名前です。
「数奇な運命もの」でしょうか。そういうジャンルがあるか知りませんが。

今回は物語の紹介が主な内容になりますので、知りたくない方はご注意ください。

バラバ

2000年くらいまえのエルサレム。
石造りの建物に囲まれた広場にたくさんの人が集まっています。
罪人が処刑される前の儀式を行なっているのですが、エルサレムの風習で、祝祭の日には一人にだけ恩赦が与えられ、釈放されることになっています。
その日処刑されることになっているのは盗賊の親玉バラバと、民衆を惑わし、先導と冒涜の罪で捕らえられたイエス・キリストでした。

ピラト提督は集まっている民衆に問います。
この二人のどちらに恩赦を与えるべきか。
バラバ!バラバ!バラバ!バラバ!バラバ!バラバ!
ナザレのイエス!ナザレのイエス!ナザレのイエス!
民衆は二人の名前を口々に叫びますが、バラバの名の方が多く呼ばれているように聴こえます。文字数のせいでしょうか。「ナザレのイエス」と3回叫ぶ間に「バラバ」なら6回言えます。
しかもバラバ釈放を求める一団はまとまって前の方に陣取っています。完全に作戦勝ち。ピラト提督は、イエスの鞭打ち、その後の処刑を命じます。
茨の冠をこしらえてる奴の指にトゲが刺さって「イテテ」みたいなシーンもあります。

バラバは昼間なのに真っ暗になった丘でイエスが磔にされるのを目撃(見物?)します。
人殺しの盗賊バラバでしたが、イエスの磔の光景、イエスの信奉者となっていた元愛人の言葉、そしてその元愛人が処刑されるのを見て、考え方が変わっていきます。

極悪人のバラバでしたが、イエスとの奇妙な「縁」で信仰に目覚めていくんですね。

その後バラバはまた罪を犯し捕らえられますが、祝祭の日に恩赦を与えられたものは死刑にできないという決まりがあり、「死ぬまで鉱山で重労働の刑」が言い渡されます。
落盤事故で死にそうになったけど助かったので畑仕事に回されて、そこでスカウトされて今度は剣闘士になります。

地味な映画だなーと思って観ていたらこの辺りはかなり大掛かりでした。サッカー場みたいな広い闘技場でなんかすごい人数が入り乱れて殺し合いするバトルロワイヤル状態。観客もすごい人数です。
落ちるとワニに食われる池とか、落ちるとライオンに食われるゾーンとか、落ちると焼け死ぬ炎ゾーンとかもあって、どこを見てればいいのかわからなくなる。
元々盗賊の親分で荒っぽいことが得意なバラバは訓練され、メキメキ強くなります。
この訓練シーンなんか面白いです。みんなで並んで網を投げる練習とか、ぐるぐる回る人形の腕を避ける練習とか、ガンダムハンマーみたいなトゲ付き鉄球の振り子の連続を避けながら進んだりとか、カンフー映画の修行みたいです。
どんどん強くなったバラバは『ベン・ハー』に出てくるような戦車に乗った将軍にも勝ち、皇帝に「お前強えーから自由にしてやる」と言われ、自由の身になります。

鉱山でも闘技場でもキリスト教徒と出会い、バラバは考え方、生き方に影響されていきます。
そして、バラバの心がキリスト教徒に近づいていくにつれ、ナザレのイエスが死んで、替わりに自分が生き残ったという事実に苦しむようになります。「なぜ俺なんだ?」と。

バラバは苦しみながらもキリスト教徒に同化しかけますが、キリスト教徒たちは、イエスの替わりに生き延びたことや、イエスの教えを全面的には信じていないことを知っていて「今さらなんだ」みたいな態度でバラバを拒絶します。

バラバがカタコンベの地下道を迷い続けた末地上に出るとローマの街が燃え上がっていました。
キリスト教徒が放火しのだと言われ、それを信じたバラバはこれこそ新しい世界の到来を告げるものだと自分も火をつけて回ります。
しかし、キリスト教徒が放火したというのは悪質なデマでした。
バラバは大勢のキリスト教徒とともに磔にされてTHE END。

途中で「地味なベン・ハーか?」と思うような時間帯もありましたが、全体としては「信仰」についての物語でした。つまり私が理解できる種類の物語ではないのですが、最後にバラバは自分なりの(自分だけの)信仰にたどり着いたように私には見えました。
映像としては、絵画のようなシーンがたくさんありました。テレビ画面の視聴でしたが、彩度を抑えた赤色とか、石造りの町に陽光が注いでいるシーンとか、落ち着いた美しさでした。
冒頭のイエスの磔シーン、そしてラストのバラバの磔シーン、恐ろしくも美しい場面になっていました。

バラバを演じたのはアンソニー・クイン。
フェリーニの『道』のザンバノ役の人ですね。体に巻いた鎖とか切っちゃう芸で食ってた(違ったっけ?)。力持ちで粗暴な男ならアンソニー、みたいな風潮だったのでしょうか。

監督はリチャード・フライシャー。
『海底二万哩』、『ミクロの決死圏 』、『ソイレント・グリーン』他多数。いわゆる職人監督でしょうかジャンル幅広いです。『悪魔の棲む家PART3』なんてのもあります。

そしてプロデューサーはあのディノ・デ・ラウレンティス。
「あの」が似合う男ディノ・デ・ラウレンティス。
私もいつか「あの」付きで呼ばれたい。
名作・迷作多数プロデュースした大物ですが、私はラウレンティスと聴くと、映画を友達と観にいくようになった中学生以降の『キングコング』(1976)、『オルカ』、『フラッシュ・ゴードン 』(うぷ)、『デューン/砂の惑星』などを思い出します。
懐かしい。そしてどれも評判悪い。
でもいいんです。懐かしいから。『デューン/砂の惑星』なんか配信動画買ってタブレットにダウンロードしてあります。いつでも観られるように。
『炎の少女チャーリー』もディノプロデュース、…これはいいか。

というわけで『バラバ』。
映像は絵画的で大掛かりな闘技場シーンなどもありましたが物語は内省的で重さのある映画でした。

そしてこの映画、原作がありました。作者のラーゲルクヴィストは、ノーベル文学賞作家だそうです。

バラバ (岩波文庫)  ラーゲルクヴィスト (著)

読みたくなっちゃうなぁ。

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