キシワタリ天涯地 23

「私あの後、…入院して。くぼやんにもらった色鉛筆でたくさん絵を描いたんだよ」

「病院で?絵を?」


「なんか…そういう病院」

「そうか…」

「退院して、中学に入ったんだけど。なんか。なんかダメだったなぁ」

「ダメ?」

「私ね。
私が悪いんだけどね。

ちょっとだけその小学校に行って、すぐ中学になったんだけど。
その小学校からの子がほとんどみたいなとこで。
私が、…変だっていうのがみんなに伝わって。
まぁ変なんだけどさ。

旭小で良かったことがそこではダメで」

くぼやん私ね、
入院してたけど、治ってないのよ」


「なおって…」

「見えちゃうの。変なものが。今でも。

旭寿町にいたころよりはずっと減ったけど、何か机の下にいたり、友達の顔にベッタリとこう、ぐちゃぐちゃしたものが貼りついていたり。そういう子って、何かあったりするのよ。怪我したり、家族に不幸が起こったり」

「そういうの見えちゃうと、私もそういう顔するみたいで。おかしい子、気味悪い子、感じ悪い子、ってなっちゃうでしょ。そりゃそうだよね。で、けっこうひどいことされたのよ。
くぼやんごめんね」

「え?なにが?」


「くぼやんの耳。
耳にね、何かぐちゃぐちゃしたのが付いてるの、見えるのよ。今」

「あ?俺の耳?ぐちゃぐちゃしてる?」

「うん。感じはいつものとちょっと違うけど、ぐちゃぐちゃ」


「ああ、これか。ははは。これは見えてもいいぐちゃぐちゃだな」

「え?」


「俺、ほら、柔道部だから。こうなってんの」

「え?柔道部?なにそれ?」

「あっ」  「あ…」

 


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

「じしん?」

 

 

 

23

 

去れ
穢れしものよ

 

「あっ!」

去れ

ゴウッ!

去れ

 


ガチガチガチガチッ!

 

「これは。エレイン?」

ビシッ!!

 

 


「あっ!」

!!

 

 

「あああああっ!」

お母さんは頭から洗うのか?

うん

そうか。
同じにしような

うん

お父さんの背中も流してくれるか。

いいよ

ねぇ、おとうさん、

 

 

この絵、なあに?

 

これか?

これは、獅子だ。

ししだ?

ははは。しし、だよ。

しし?

そう。獅子。

怪獣?

はは。神様の使いだ。

かみさま…

強いの?

強い。

ふうん。

 

 

「ではそろそろ失礼します」

「もっとゆっくりしていってくださればいいのに」


「私の勝手で迎えが遅れてしまい余計にお世話をかけてしまいました」

 

「いえいえそれはいいんですよ、私たちもそれだけ渉くんと一緒にいられましたし、ねぇ明日美」

「そうそうそう。渉くん、なんならお父さんと一緒にここに住んじゃえば?」

「……」

 

「では、本当にお世話になりました」

「そうですかぁ。あ!駅まで送りますよ」

「いえ。二人で歩かせてください」

「そうですか…じゃ。渉くん、これ」

「え。これ…、」
「鍵?」

「うん。渡しとくから」

「鍵…」
「家に来た時誰もいないと入れないでしょ」

 

「おばさん…」

「なんか困ったらいつでも来るんだよ」

「お母さん、なんか困ったらって」

「だってあんた」

「困らなくても遊びに来ればいいのよ。ね、渉くん」

「うん」

 

 

 

 

 

 

「……」

「行っちゃったねぇ…」

 

「お父さんて、…もっと怖い感じの人かと思った」

「でもおっきいねー、お父さん。渉くんもあんなに大きくなるのかなぁ。
あ、こっち見た。笑ってる!手ぇふっちゃお」

「おかーさん。ここからじゃ見えないでしょ」

「私にはわかるのよ。
あ、曲がっちゃった」

 

 

「あーあ。行っちゃったねぇ…
ふと見上げれば、日本の空は電線だらけだねぇ」

 

「お母さんなに言ってんの?」

「こういう時は空を見上げるもんなのよ」

「なに言ってんの?」

 

 

 

グヮシャッ!

 

ガシャガシャガシャッ!


 

 

カッ!!

(オオ、ミ

 

グオッ!!

コ…)

 

 

 

ガッシャーンッ!

 

 

 

ゴウッ!

「ああっ!」



 

 

 

 

 

 


ガハァァァァ

 

「ノレ」

「シシ…」

「シシよ、ここで出てしまったらもう…」

「モウモドルイエモナイ」

「…あいつが、お母さんの封印を破ってしまった」

「アイツハ ドコヘ?」

「町へ。
あの町で新しい体になって
現世に戻るつもりね」

「アレヲ オエバ  ミサトモ ゲンセニモドレルナ 」

「それより。…エレインが…」

「あいつのところに入っていたエレインが、消えてしまった」

 

 

 

 

  
 
 

 

「どうした?」

「え?うん?なんか…」

「おなか、痛いのか?」

「そうじゃなくて。なんか、うん」

「なんだよ」

「それよりくぼやん、町に入るならこんなとこ登ってもダメだよ」

「え?」

 

「町に入るなら、
こっちだよ」

つづく

キシワタリ天涯地 23 2018.11.18

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Horizon zone KISHIWATARI 23 2018.11.18
©Masakagemaru Terada/oto-ra.com

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