キシワタリ天涯地　17

「もう降ってきたんだね」

「芙多葉さん、…」

「あれ？……　」

「見てたでしょ？マサマルの上の、あの、
大きな顔みたいなもの」

「大きな顔…」

「そう。なんだかゆがんだ、
しわだらけの年寄りの顔みたいなもの」

「そんなふうに見えるんだ」

「え？」

「三珠さん、はじめて？」

「え？何が？」

「そういうものが見えたの」

「あんなに…

…大きなものは…」

「…ありがとう」

「え？」

「顔、ふまれるとこだった…
怖かった。　助かった。ありがとう…」

「ああ。うん。よかったよね…」

「ふたり…」

「え？」


「だいじょうぶかな、小さい子、ふたり、救急車に乗せられる時、ぐったりしてたけど」

「…だいじょうぶかな、あの子たち…」

「あ、ああ。そうだな。ぐったりしてたな」

「俺、二月に…」

 「二月にお母さんがし…」

「俊充！」

「お母さん…」

「あんたなんだい大丈夫かい？
痛くないのかい？」

「痛くねぇよこんなの痛ってえよ！」

「痛いんじゃない！」

「さわるからだよ！」

「ああ渉くん、大丈夫？なに腫れてるじゃない！痛いでしょ？」

「痛く、痛った！さわらなきゃ痛くないです」

「眼は？眼は大丈夫なの？見える？」

「まぶたが腫れてるだけですから。眼は大丈夫です」

「ほんと？ああ、ごめんね、かわいそうにごめんね、
もう、もうしわけない。倫子さんにもうしわけない」

「おばさん…」

「倫子さんにあわせる顔がない。ごめんね、ああ、ああ」

「おばさん。
お母さんはこのくらいじゃ驚かないですよ」

「え？そうなの？」

「はい」