書き忘れてたが、引っ張られたあと添木っていうか、木じゃないけど手でグニグニ形を整えられて後で固くなるやつを小指と薬指の先から手首と肘の中間あたりまで当てられ、テープでぐるぐる巻きに固定された。そして三角巾。人生初三角巾。
もう動かせない。
っていうかもう動くな俺の体のそのあたり。
医師に
「痛み止めを出しましょうね。ロキソニンは大丈夫ですか?」
と訊かれ、思わず
「はい」
と答えたが、(ロキソニンなんか使ったことないや)と思っていると医師も何かを感じたのか
「ロキソニン、使ったことあります?」
「いいえ」
ってなんだこの会話。
会計を済ませて(ロキソニンも出してもらい)上着の袖に手を通さず肩にかけた時、昔映画で見た指を詰めたヤクザの映像が頭をよぎった。
(病院出たとこで撃たれちゃうかな)
とか思ったが、しょぼくれたケガ爺さんの前にヒットマンが現れることはなく、妻に介助されながら車に乗り帰宅した。
あーどうしようかな。
つかどうなるのかな右手の使えない生活。
通勤電車なんか乗れないな怖くて。
会社になんて言おうかな、有給休暇って何日残ってたっけ?
あまり忙しくはないけど進行中の仕事もあるけどあれやらあれやらどうしよう。
家にいた娘も加えて三人でお茶しながら色々考えていた。
妻が言う。
「左手でできることは左手でやればいいよ。できるよ。脳にもいいんじゃない、ボケ防止で」
そうね。いつもポジティブで助かるよ。
でも左手じゃ絶対できないことがあって……
妻「あ!お絵描きできないね!」
娘「そうだよお絵描きできないじゃん!」
妻・娘「かわいそー!」
痛みやら生活やら仕事やらより「お絵描きできない」に強力な反応。
実は「骨折 →固定」とわかったとき、自分でも「あーあ」と思っていた。「しばらく絵は描けねーなー。あーあー」
サイトにアップしている漫画の第36話を年末年始に仕上げるつもりでいたので地味にがっかりしていたのだ。
「左手で描けばいいよ!描けるよ!ボケ防止で!」
ポジティブっていうか左手信仰っていうかボケ絶対阻止!の妻が言う。
ああそうね。そうなんだけど。
こういう絵だからなぁ、俺が描いてるの↓
(「粉砕骨折」っぽい絵をチョイスしてみました)
ポジティブ妻には申し訳ないが、左手で描けるとは思えない。
「ほら、口を使って絵を描く人もいるじゃん、左手なら楽勝だよ」
なんか感動のドキュメンタリーみたいなこと言い出した。
「よかったねー左手があって。絵が描けるねー。描いてみなよ練習しなよゆっくりでいいんだから」
う、
うん!
やってみるよぼく!描いてみせるよこの左手で!
愛用のiPadを取り出し、まずはそうだな、簡単に描けるのから、ちょちょいのパンっと。
…あ、いやいやまてまて、もっと描き慣れたあっちの方がいいよなそりゃそうだよな、まーるかいてホイっと。
目の前が真っ暗になった。
こりゃ、日暮れて道遠しだな。ロングアンドワインディングな夜道だな。転ばないように気をつけなきゃ。
【つづく】
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