中東で何か起きるとその都度「そもそもあそこらは何がどうなってんだ?」と思いながらテレビの報道を見たり本を読んだり雑誌記事を読んだりするのですが、「そもそも」が聖書の記述から始まっていたり、その後の歴史上の出来事もあまりに多くて複雑で、結局モヤモヤしながら「問題が根深いということだけはよくわかった」となってしまうのが常でした。
2024年10月のハマスによるイスラエル奇襲の後もモヤモヤしながら過ごしていましたが、事態が深刻化するにつれて、「やっぱりもう少し知りたい」という気持ちが強くなってきました。
そんな時、Kindle Unlimitedでこの本を見つけました。
ダニエル・ソカッチ『イスラエル 人類史上最もやっかいな問題』
著者ダニエル・ソカッチはアメリカ生まれのアメリカ人ユダヤ人。「イスラエル」が話題になると落ち着かない気持ちになったり冷静さを失ったりする人が多く、この本が、
“ 興味深く、人を魅了する本であるよう願っているし、読了後には、どんなパーティーでイスラエルをめぐるどんな会話が始まっても、うまくやれるはず ”(本書「はじめに」より)
となるよう目指したそうです。
原題は翻訳すると
「私たちはイスラエルについて話すことができますか?:好奇心旺盛で、混乱し、葛藤する人のためのガイド」
なので、実用的な本を目指したように感じます。
パーティーとは縁のない私には邦題の「人類史上最もやっかいな問題」の方がしっくりきますかね。
そんな私にも時間的にも幅広く、偏りなくわかりやすく書かれていて、とても良い本でした。
私と同じように、中東問題について「そもそも何がどうなってああなっちゃうんだ?」と感じている人はまずこの本を読むのが良いのではないかと思います。
2023年2月発行の本なので、2024年10月のハマスによるイスラエル奇襲の前に書かれた本ですが、なぜあんなことが起き、こんなことになっちゃっているのか考えるための大きな助けになると思います。
イスラエルとパレスチナの和平の機運が高まることはあっても全て潰されてきた経緯を読むと悲しくなってきます。
現時点でのイスラエルのユダヤ人、アメリカのユダヤ人コミュニティ、アメリカのキリスト教福音派の関係も詳しく(そしてわかりやすく)解説されていて、いろいろ腑に落ちました。
「終末思想」を本気で信じて目指している集団がいることは本当に怖くなります。
最終戦争が起きてもかまわない、というより「起きなければならない」と信じてる人間がそれなりの数で力を持っている。
彼らにとっては、ドナルド・トランプの人間としての多くの欠陥、キリスト教徒らしからぬ振る舞いも、かつて(6世紀)バビロンで虜囚となっていたユダヤ人を解放したキュロス王に似ていて、それは神の道具として奉仕するべく選ばれた証であると、最終戦争必至の「天啓史観」の実現は近づいていると考えているようです。
偏りを廃し、事実を冷静に書いていったら悲観的なことばかりになってしまったようで、筆者はそれを気にして最終章は希望の持てるようにと、イスラエルとパレスチナの公正な未来のために活動している三名の文章が紹介されています。頭が下がります。
これらの人たちが2024年10月以降も力強く活動を続けていると信じたいです。
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