すぐ裏の家に住んでいる義母は時々、補聴器が着けられないと妻のところにやってくる。
義母は両耳悪いのだが、なぜか右耳は着けられるが左耳に着けようとするとどうも痛くて着けられないというのだ。
私は、耳ではなく左側に手を回した時に肩でも痛いのだろうと思っていたが、そのたび左耳に補聴器を装着してあげている妻の話ではどうもそうではなく、耳の奥が痛いらしい。
何か悪い病気だったら大変と、妻がつきそって行きつけの大学病院の耳鼻科へ。
内視鏡で耳の奥を検査。
モニターに義母の耳の奥が映し出される。
「こ、これは」
医者が驚きの声を上げる。
モニターには丸くて銀色の何かが。
「これは…、電池?」
銀色の表面にはうっすらとバッテンが。「+」?
なにがどうなったのか、補聴器で使うボタン電池を耳の奥に突っ込んでしまったらしい。
「子どもがBB弾を鼻に突っ込んじゃうことはあるけど、これは…」
医者も驚いている。
珍しいケースだったようで、研修生だか学生だかを何人か呼び出して、症例のひとつとしてモニターを見せる。
「これ、何だと思う?」
医者が、いちばん近くにいた小太り黒縁メガネの研修生に訊ねる。
「こま く?ですか?」
妻は思った。
なわけねーだろ。
医者がやや怒った口調で言う。
「違うよ」
妻は思った。
あれが鼓膜じゃないことくらい私でもわかるわい!それともうちの母はサイボーグかい!鼓膜が銀色メタリックで「+」って刻んであるんかい!!
その後。そこそこ苦労して(なんかこう、細い何かを入れてこう、って想像するだけで身悶えちゃうけど)、無事電池は除去されたということです。
電池が粘膜とかにずっと触れているとなんかこう溶けちゃったりしてよくないそうなのでよいこのみんなは真似しないでね!