なんかベタベタしてるカップルとか苦手で。
ベタベタしてるカップルが「得意」とか言うヤツがいたら「日本語的にだいじょぶか?」と言ってやると思うけど。
じゃあ口汚く罵り合うカップルはどうなんだ?と問われれば、もちろん口汚く罵り合うカップルの方が好物なんだけどそういう話じゃなくて。
必要以上に密着して通勤ゾーンでグッキリ手をつないで歩いてるカップルとかなんか苦手で。
俺もじじぃだなぁ、と思うけど別に面と向かって文句を言うとか嫌がらせするとか背後から体当たりするとかはしないので許してほしいのじゃ。
三日前の朝。
やだけど家を出て、やだけど会社に向かっていたところ、目の前にお手々つないで歩くカップルが登場。二人とも30過ぎくらいかなぁ、くらい。
なんていうんだ、あれ、5本の指を交互にこうガッキリ組み合わせる手のつなぎ方。駅に向かっているだろうからずっとそのお姿を後ろから見ながら歩いていくのかなぁ、なんか萎えるなぁ、電柱でも観察しながら歩こっと。
と上を向いて歩いていたら、そいつらなんか歩くの速くてどんどん距離が離れてく。さらに少し先で、私がいつも使う道から逸れて曲がっていった。
そっちからでも駅に行けるのだが、もちろん私はいつもの道を行く。
橋を渡り質屋のある細い路地を抜け国道に出る。
そこの信号を渡れば駅前の商店街だ。
だがそこで。
赤信号で待っている人々の中にさっきのカップルの女が。ひとりで。
あれ?
男は別の、地元の職場かなんかで途中で別れたのかな?
と思ったら、信号を渡った先に片割れの男がポツンと立って、信号のこっちの女の方を見てる。
あれ?
なに?
なにがどうなってこの状況?
どうなるとこうなるの?
あんなにしっかりつないでいた手を離してしまったのはなぜ?
想像すると。
国道の信号に近づいたふたり。
青信号が点滅を開始。
男はここで渡ろうと歩みを速め、女は待とうと歩をゆるめる。
離れる手と手。
信号が変わる前にと走って国道を渡る男、残される女。
つないでいた手が心持ち宙に浮いている。
動き出した車の流れがふたりの仲を裂く。
で、この状況、と。
私は思った。
「こいつら、何のために手をつないでんだろう?」
待つことしばし。
信号は再び青になり、女は国道を渡り、何事もなかったようにふたりはまた手をつなぎ歩き出す。口汚く罵り合うこともない。
本当に何事もなかったように駅への道を進むふたり。
私は確信したね。
このふたりはいつか別れる。
来年かもしれないし、五年後かもしれないいつか。
何かが積み重なって、ある日女は思い出すのだ。この朝のことを。
「ああ、この人は私より国道の横断を優先させたっけ。自分が信号を渡るためにつないだ手を離して私を置き去りにしたそんな人。何かあれば自分だけで行ってしまうそんな人。いつだってそんな人。もう限界だわ」
いざという時に離してしまうのなら最初から手なんかつながないほうがいい。
と、教訓エッセイ風になってきたけどこのエピソードのキモは、口汚く罵り合うカップルは好物だけど、欺瞞に満ちた仲良しカップルはさらに大好物、っていう私のゲスな好みがあきらかになったところですな。