日ごろスタートレックネタが多めのこのブログ。
偏ってはいかん。と、ちょっと反省して、今回は自閉症の21歳の女性が夢に向かって頑張る姿を描いたこの映画を鑑賞しました。
Amazonプライムビデオ『500ページの夢の束』“Please Stand By”
自閉症で、施設で暮らす21歳のウェンディは、日常の行動をひとつひとつ確認しながらでないと生活できなかったり、身近な人とも目を合わせて話せなかったり、できないことがたくさんありますが、『スタートレック』に関する知識は誰にも負けません。
「宇宙軍法会議」の回で ミスタースポックが受賞したとされるのは“バルカン星科学名誉勲章”であるとか、ドクターマッコイの娘の名前は?という問題にも即答(答えは “ジョアナ”)です。
さらに、後半になってわかりますが、クリンゴン語もペラペラです。
すごい!これはすごい!すごいぞウェンディ!人間スタートレックエンサイクロペディア!友達になりたい!英語もクリンゴン語も話せないけど。
あれ?
スタートレック入ってるぞ。またかよ。おかしいなぁ?
もちろん知ってて観ましたごめんなさい。
でもこの映画観たかったんですよねぇ。
いつだかなんかの雑誌(曖昧な記憶)の紹介で読んで劇場には行けなかったからいつの日か観たいと思ってました。それが今日だったんですね。
ウェンディはテレビドラマのスタートレックが大好きで、毎日の日課にもスタートレックを観る時間が組み込まれています。
そんな彼女がパラマウント社(スタートレックシリーズを製作している映画会社)の「スタートレック脚本コンテスト」を知り、応募作品を書き始めます。
そりゃもうすごい勢いでMacBookのキーボードを叩き続けます。
スタートレックシリーズを愛していたのはもちろんですが、彼女にはこのコンテストに応募して、入賞しなければならないもうひとつの理由があったのです。
ウェンディは応募作品を書き上げますが、なんやかやあって郵送では締め切りに間に合わないことに気づき、パラマウント社へ直接届ける旅に出ます。
パラマウント社のあるロサンゼルスまで数百キロ。近所の交通量の多い通りの横断すら禁じられているウェンディ。
でも行かなければならないのです。
なぜでしょう。
旅の始めから不測の事態が彼女に降りかかります。
旅の序盤も中盤前半も中盤後半もそして旅の終盤までも。不測の事態が彼女を襲います。
でもウェンディは諦めずに進みます。ロサンゼルスへロサンゼルスへ、パラマウントリクチャーへ。
なぜでしょう。
邪魔する者も助けてくれる者もいます。いい具合に。
ウェンディの姉や、彼女が暮らしていた施設の職員とその息子が後を追います。
途上、彼女の脚本の断片が本人のモノローグとして読み上げられます。
彼女の言葉でざっくりいうと、
「スポックが時を超え惑星連邦を救う」
物語だそうです。
脚本の断片は詩のように読み上げられます。
スポックとカークの悲しい別れのシーンも出てきます。
膨大なシリーズにあらゆるドラマのバリエーションがあるスタートレックシリーズですが、「詩のような」エピソードは無かったかもしれません。
スタートレックファンはもちろん大丈夫な映画ですが、スタートレックを知らない人が観ても感じるものは多い大丈夫な映画だと思います。
ただ、スタートレックを全く知らない人は、
スタートレックとは、
宇宙を舞台にしたアメリカの国民的SFドラマ(映画版も多数あり)であり、詳しい世界観が作られていて、その世界観に(あきれるほど)詳しいファンも多いということ、そして「クリンゴン語」というのはシリーズに出てくる異星人クリンゴンの言葉である。
というくらいは頭に入れておくとより楽しめると思います、というか、ある大事なシーンをより理解するためには知っておいてください。
彼女を追う施設の職員の女性はスタートレックを全く知らず、高校生の息子に単語の意味を訊いたりするんですが、この人、フェアで、毅然として、正しいことを行動で示せる人なんですね。そして温かい「情」がある
そうです。
まるでエンタープライズの上級士官のようです。
そう思うと、ウェンディの融通の効かないところとか、数字に細かいところとか(時間の計算とか速い)、ちょっとスポックを連想します。
ウェンディがスタートレックに惹かれたのはスポックと自分に共通点があると思ったからかもしれませんね。
スタートレック感はともかく。
全体としてとてもバランスの良い映画だと思いました。各エピソードの順番とか配置とか重さとか良いこと悪いことの起こる度合いとか音楽の入れ方とか。「あり得ない」とまでは思わせない程度のアクシデントの連続とか。
あと思ったのは、これは現代を舞台にしているけれど、「スタートレック的良識・価値観」を信じてる映画だな、ということです。
もしもスタートレックを知っているとかいないとかに関係なくこの映画が多くの人に支持されるのなら、きっとまだ世界は生きるに値するんだと思います。
目的や夢を持ち、それに向かってめげず腐らず(ある時は常識やルールを超えて)行動し、自分の能力を、それを必要とする人のために使うことを厭わない、むしろそれを喜びとする。そんなスタートレックの良識。
この映画に出てくる「良い人」は皆この良識に当てはまる人たちだったと思います。
というとっても良い映画。
なんですが。
邦題はほんの、ほんのちょっとだけ残念かな。
原題の「Please Stand By」は、ウェンディがパニック状態になった時に落ち着かせるための言葉で、序盤では施設の人間に言われる場面がありますが、終盤、ある出来事で(ほんとかわいそう)打ちのめされたあとこの言葉を何度も自分でつぶやいて自分を抑えるという、地味だけど感動的なシーンがあります。
それと比べると邦題はやや上っ面な感じがしますね。
あと、この映画はパラマウントの製作ではないのですが、最後に出てくるパラマウントの社員がちょっぴり意地悪に描かれていたのがおかしかったですね。このシーンのウェンディの視線は見ものですよ。身近な人とも(姉とすら)視線を合わせられなかったウェンディが最後にどこにたどり着いたか。ユーモラスなシーンだけど涙なしには観られない見事な合わせ技。
ほんと、良い映画でした。何度も言っちゃう。