心地いい読後感。筒井康隆『モナドの領域 』を読んだら

近くに美術大学がある河川敷で、切断された女の片腕が発見され、50代で美貌の警部上代真一が現場を訪れるところから始まります。
「50代で美貌」ってどんなだ。こいつが不可思議な事件を追うそういう話か、と思って読んでいたらそんな単純な話ではありませんでした。

モナドの領域  筒井康隆(著)

どういう話なのか全く知らずに読み始めたので、しばらくは「どういう話だ?こういう話か?いや違う」という感じで読み進めていました。
次々に起きる不思議な出来事に引っ張られてページが進みます。
河川敷の近くの公園で今度は女の片足が発見され、その後バラバラ死体の一部があちこちで見つかっていくのかと思いきやそんなことにはならず。話は上代真一から離れてゆき、なんと「神みたいな存在」が現れます。
公園のベンチに座って、通りかかる人に話しかけ、相手の名前やら生活のことやらを正確に言い当てます。評判を聞いて多くの人が集まってきます。
巧妙な詐欺師の話になるのかな?と思いましたがそうではなく。どうやら超常的な能力は本物のようです。
でも「神」ってのは嘘だろうなと思って読んでいると…

昨日まで美大の教授だった男はやがて「GOD」と呼ばれるようになり(自分でGODと呼んだらどうかと提案した)、法廷やテレビ番組で多くの人の質問に答えたり答えなかったりします。
やがてGODは自分が現れた目的も話しますが、人間には全てを理解することはできません。
この、目的を話す過程で読者も巻き込むような展開があり、ちょっとめまいがします。特に良質なフィクションで時々得られるいいめまい。価値観が揺らぐ感じ。

筒井康隆は「わが最高傑作にして、おそらくは最後の長篇」と言っているそうです。
私はこの言葉を判断できるほど筒井作品は読んでいませんが、読後感はとても良かったです。
GODは「私は偏在している」と言っていましたが、日常のちょっとした出来事にもGODの意思が介在していることがあるんじゃないかと思えてきました。

最後にひとつだけGODの言葉を引用しておきます(長いけど)。
日本が無宗教になった現状を嘆く男にGODはこう答えます。

「通常、世界のほとんどの国の人間はみな祈るべきものを求め続ける。できるだけ多くの者と一緒に祈ることができるものを求める。だから世界中の人間が自分と同じものに祈ることを願って戦争する。自分たちと同じ神を信じるのでなければ、お前たちもお前たちの神も死んでしまえと言って殺し合いをする。ところがお前さんたちのこの国は、今ではほとんど無宗教の国だからそんなことはない。もともと八百万の神のいる多神教の国だし、仏教もあればキリスト教もありオウム真理教まであったとという国はほぼ無宗教に等しい。そんな国であるということをお前さんたちはむしろ喜ぶべきじゃないのかね」

筒井康隆『モナドの領域 』

人間の日常の小さな物差しの目盛から、人智を超えた神の大きな計らいまでバランスよく、ちょっとアドリブ感のある描写も混えて気持ちよく見せてもらいました。

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