「痛いけど引っ張って固定しますかかなり痛いけど」
整形外科医としては切ってピンで固定したいけど私の体の事情でそれを諦めた医師は残念そうに言った。経過が悪けりゃ斬るけどな、という含みを残しながら。
あ、切るだ。
というわけで引っ張られに。リハビリルームの前で待つように指示したナースが最後に「痛いですけど」と付け足した。
やがて名前を呼ばれ、引っ張る人に説明を受けた。
短髪でガタイのいい、見るからに今時の明るい体育会系、という雰囲気の引っ張る人は開口一番こう言った。
「ガッツリいっちゃってますね」
なんか嬉しそうだぞ。相手に不足なしみたいな感じになってるぞ。
やがてもう一人、こちらは細身のおとなしそうな助手がノートPCその他の機器を持ってやってきた。超音波で状態を診るそうだ。
ベッドに寝かされ、丸っこい器具をぐりぐり当てて、二人であーだこーだあーだからこーしようとか打ち合わせている。
ちなみにその間にも「痛いけど引っ張る」「引っ張るけど痛い」みたいなことを何度も言われた。
そしていよいよ引っ張りタイム。
両手で私の右手を包むように持ちながら引っ張りマンは言った。
「相当痛いと思いますけど、やりますね」
もう「MAX痛い」なんだと覚悟した。「MAX痛い」がどのくらいなのかわかんないけどさ。
鼻垂らして泣いたりしたらカッコ悪いなぁとか思っていると右手を絞り上げるように引っ張られ引っ張られちょっとひねって引っ張られ引っ張られ押し込まれ引っ張られもうどうなってんだかわかんないけど痛いことされなんだこれいつまで続くんだこれ引っ張るマンてめー覚えてろよコノヤロータイマンなら負けねーぞと思ったら引っ張りマンの力が抜け、痛みも終わった。
「我慢強いですね」
幸い悲鳴を上げることもなく、鼻も垂れていなかった。
引っ張るマンはもう一度言った。
「我慢強いですね。「どぅわっ！！」とか言ってもいいんですよ」
言わねーよ。「どぅわっ！！」なんて六十二歳のボキャブラリーに無いよ。
って……え？
「言ってもいいんですよ」？
まだ続くのこれ？
どぅわっ！！
どぅわっ！！
どぅわっ！！
もうやめて。「どぅわっ！！」って言うから何度でも。
とビビったが引っ張りはこれで終わりだった。よかった。
引っ張り後のレントゲンを撮り再び医師の前へ。
「うん」
写真を見た医師の肯定的発声の「うん」。
ハスの花はほぼ閉じていた。
が。
よく見ると花びらが一枚、少し外に出ている。
ここが心配だけどとりあえずはこの状態で骨が着くのを目指しましょう、ということで初診は終了。「とにかく動かすな」ということでした。
花だったハスが閉じてツボミになったということで治療が一歩前進したと思うことにしよう。
あ。
ツボミじゃまた開いちゃうじゃんね。
【つづく】
コメント