567 されど4ミリで変わること

丸坊主なんです。私。
妻の実家に義理の弟が使っていた電気バリカンがあったので、「これでいいや」と妻に刈ってもらったところなかなか快適だったのでそれからずっと。
あれは、前の会社を辞める少し前だったから、十年近く丸刈りなんです。私。
で。
誰かに「床屋で坊主にしてるの?」とか訊いてもらいたかったんですけど、今まで誰ひとりそんなこと訊いてくれませんでした。
え?
なんでそんなこと訊いてもらいたいのかって?
「床屋で坊主にしてるの?」と訊かれたらこう答えるんです。
「いや、これは女房が。にょーぼがじょーずにぼーずにしてくれるんです」

はい。

ところが前回の床屋の日。にょーぼが言いました。
「もうそろそろ自分でできるんじゃん?」
「もう」って?
「そろそろ」って?
疑問に思った私はきっぱり言いました。
「うん。やってみる」

やってみました。自分でマントみたいのを羽織って、バリカンスイッチオン。
できるだけ。均等に。きんとーに。まんべんなく。まぁんべんなっくぅぅっ。腕が変な風に捻じ曲がっていきます。忍法で操られてる悪いやつみたいです。
自分でできるだけやって、仕上げはにょーぼに任せました。人事を尽くして天命を待ちました。
疲れましたがなんとか形になりました。
女房に、
「変じゃない?」と訊くと
「誰も人の頭なんか見てないよ」
と、たのもしいお言葉が返ってきました。

こうして私の頭は八割強自分刈り、二割弱女房刈りということになりました。
そうなって2回目の今回。もうひとつのチャレンジが実行されました。

バリカン本体に長さを調節する、アダプターっていうんでしょうか、グレーのプラスチック製の器具を装着して使うんですが、いつもは一番長く髪が残る「9mm」というのを使っていたのですが、今回はひとつ短い「5mmアダプター」を使用してみました。
一気にマイナス4mm。半分近く短く。
すると。
たかが4mmと思いきや、今までより「丸刈り度」が格段にアップしました。
今までの「丸刈り度」を4マルガリードとすると今回は8マルガリード、いや、9マルガリードに迫る丸刈り度。

会社に行くと、いつもの私の丸刈りには無関心だった人々も、
「さっぱりしたねー」とか「涼しそうになったねぇ」と声をかけてくる。4mmマイナスの威力!たかが4mm、されど4mm。

これは。
ひょっとしたら。
訊いてもらえるかも。

私は、いつどこで誰に「床屋でやってるの?」と訊かれてもすんなり答えられるよう、心の中で
(にょーぼがじょーずにぼーずににょーぼがじょーずにぼーずににょーぼがじょーずにぼーずに)と唱えながら一日過ごした。

無駄なシミュレーションだった。

でも私はあきらめない。
アダプターはもうひとつ、2mmというのがあるのだ。あれさえ使えば。
いや、なんならアダプター無しで直バリカンでもいい。
直バリ。
血まみれになりそうだが。

傷だらけの頭で出勤した私に同僚が尋ねる。
「どうしたの?」
私は答える。
「にょーぼが…」

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