…カシャカシャカシャカシャ
みんな逃げろ
みんな逃げろ
みんな逃げろ
みんな逃げろ
みんな逃げろ
みんな逃げろ
みんな逃げろ
みんな逃げろ
みんな逃げろ
みんな逃げろ
「ゴミだらけだな。なんでこんなんなっちゃったんだこの町は」
「変なもん踏まないでね、お父さん」
「わかってるよ。わかってるけどこんなだぞ」
「ゴミだらけだけどカラスが全然いなくなっちゃったのよね。
この前までカラスだらけで気味悪かったけど、いなきゃいないでなんかね」
「カラスも逃げる町、か。うちも潮時だったよな。
俊充、学校の前でも通って行くか?見納めに」
「そういうのいいから」
「そうよ。学校の方へ行ったらこの前の放火現場通っちゃうじゃない」
「もう消えてるよ」
「そういうことじゃなくて気持ち悪いでしょ。
犯人捕まってないし、二人も焼け死んでるじゃない」
「放火もやたらあるからなぁ。放火の現場避けてたら町から出られなかったりしてな。
ま、新しい学校行けばすぐ友達もできるさ。子供は、な」
(芙多葉。…なに見てんだ?)
「悪い虫ばかり…いうことをきかない悪い虫」
「…もう縁切り虫もいないから…」
「だれも逃げられない。この町から」
キシワタシよ
われら
正しく神を渡すこと
かなわず
やがて
災厄の雨が降る
そなえは遅く幼い
すべては
ヒトが招きし命のよどみ
百まで生きても足るを知らぬ強欲
理を忘れ
命を還さず
渡りを澱ませた
還らぬ命の澱みが神を殺し
死の神の種が蒔かれた
死の種の芽吹きが招くは
絶対の破滅
そなえは
未だ
幼く
非力
せめて猶予を
「あの子はまだ幼い。
私が。
渡せずとも封じ、せめて時を稼ぎましょう」
「これで」
身を捨てるか
「もとよりその覚悟。ただ。
あの子ひとりを残すのが」
あの子には守護を遣わそう
猶予の時を生き抜くため
そして
時来れば
天命果たす供とするため
キシワタシよ
月満つる夜
神の鋳型が乱れた風を呼ぶ
乗じて死の種は己れを放つ
鋳型の宮に向けて
…カシャ
カシャ
カシャ
カシャ
もう逃げられない
もう逃げられない
もう逃げられない
もう…
誰も
キシワタリ天涯地 25 2020.04.20
Horizon zone KISHIWATARI 25 2020.04.20
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