623 今夜はどさかせてくれ

先日、映画『愛と誠』(2012)に度肝を抜かれた話をしたのは記憶に新しいが(参照→いったい誰に向けて作ったんだろうと思いながら観たらなんと俺向きだった映画『愛と誠』(2012)を観たよ)。

観ていてひとつ思い出したことがある。
映画は、昭和歌謡と昭和コントと昭和純愛山河が、ある時は溶け合い、ある時はからみあい、またある時は響き合うという稀有なものであった。
その劇中で歌われた昭和歌謡の一曲、「夢は夜ひらく」。この歌に思い出があった。

初めて聴いた時は小学生だったろう。
ちょっと他の歌手たちとは違う空気をまとっていた藤圭子の歌声。「圭子の夢は夜ひらく」という曲名で紹介されることもあるので、他にもいろんな人が夜ひらいてるのかもしれないがここは藤圭子。っていうか他を知らん。

圭子は歌っていた。
「どさきゃいいのさこの私 夢は夜ひらく」
これほんと、こう歌ってた。
正しい歌詞が
「どう咲きゃいいのさこの私」
であるのは大人になってから知った。ほんと。

ケシの花は赤く咲いて、百合の花は白く咲くけど私はどう咲けばいいの?という意味だが、当時の私にはまったくわからなかった。
どさきゃ?
なんだそりゃ?
どさきゃ?
母は、白木葉子が力石徹に差し出した「さゆ」が「ただのお湯」だと教えてくれたが、怪しい空気をまとった藤圭子が歌う怪しい歌の怪しい歌詞の意味を母に訊く勇気は無かったので、自力で考えた。

圭子は、
なんか不幸だ。

圭子は、
暗かった。

圭子は、
なんかぼやいてる。なんかやさぐれてる。

圭子は、
圭子は、

どさいてる。

そう。圭子はどさいてる。
どさいてる歌なんだ、これ。
つらい時、哀しい時、やりきれない時、どさくんだ。大人って。どさきゃいいんだ。どさきゃいいのさ。
なんかそういう意味。

ってことで。
小学生の私は、大人がやさぐれてぼやくことを「どさく」って言うんだと勝手に定義。
最初に書いた通り間違ってたんだけど。
でもなんか、大人になってそんな言葉は無いって知ったけど。
大人になった今。

時々どさきたくなる。

親しい友人に
「きょうは思いっきりどさきたいんだ」
って言ってみたい。
そんな友だちがほしいね。思いっきりどさかせてくれる、そんな友だち。
きっと肩をたたいて「今夜はどさきゃいいさ」って言ってくれるよ。

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