「カラオケ行きたいなぁ〜」
アヤが言った。
「友だちとカラオケ楽しいよねぇ」
私が言うと、
「そうなんだけどそうじゃなくてね」
「? お父さんお母さんと行きたいの?」
「うん」
思春期に両親と娯楽なんかともにしたことなんかない世代の私にとっては意外な展開だが、かわいい娘に(まだ)嫌われていないようでほっとする気持ちも。
アヤが主に歌うのはボカロの超ハイスピードの歌で、画面いっぱいに歌詞が出て、それがどんどん流れていくのでなにがなんだかわからない。
私が歌える最速曲は佐野元春の「アンジェリーナ」だが、アヤが歌う歌は1曲あたりの情報量が「アンジェリーナ」の3、4倍くらいある。まじまじ。
こっちの処理速度の関係でほとんど頭に入ってこないスピードと情報量。
歌ってるほうの頭脳もあの速度で回転してると思うとびっくりするが、ほとんど「反射」という気もする。
最近では人の名前がパッと出てこない私にはあれだけ速く口が回るだけで驚異。
スピードについていけず目が回りそうになるので、中島みゆきの「ホームにて」とかを歌って自分で自分を癒したりする。
「へぇ、なんで?お父さんたちと行くとたくさん歌えるから?」
「そうだねー。トイレタイムもあるしね」
「? トイレタイム?」
「ほら、誰かが歌ってるとトイレ行きにくいでしょ?」
ああ、カラオケあるあるだね。そうだよね。誰かが歌い出した時にトイレに立ったりすると気を悪くしたり、、、
え?
トイレタイムが?
ある?あるっつった?
は、
ははぁ〜ん。
それでか。
それはお母さんも同じこと考えてるね。
それでかぁ。
だから一人になったルームで「哀 戦士」とか熱唱してるんだ、俺。ひとりぼっちで。ルームで。
で、ふたり帰ってきて、
「お父さん声でかいよ、トイレまで聞こえたよ」とか言われちゃうんだ。
みんなで来ているはずなのに時々おちいるひとりカラオケ状態。あらがう術は我が手にはない。
ひとりで歌ってる時に飲み物とか持ってこられたらお父さんちょっと気恥ずかしいよ。さいわい今までそんなことはなったけどさ。
そんな時はきっとみゆきの「ファイト!」を歌って自分で自分を癒すんだ。
たたかうきみの歌を たたかわないやつらが笑うだろう
笑ってもいいから俺の歌を聴いてくれ。