日々棒組み693 バレンタインデーのおもひで[ショーガク編]地獄のデスチョコレート

生まれて初めてバレンタインデーに女子からチョコレートをもらった日のことははっきり覚えている。
あれは小学六年生の三学期。2月14日のことでした(当たり前だが)。
その日の朝の会で担任の高野ティーチャーはこんなことを言い出しました。

1.本日はバレンタインデーであること
2.バレンタインチョコレート持参で登校した女子も多いことであろうこと
3.だがしかし、と先生は思うこと
4.バレンタインデーにチョコレートをもらえない男子もいるだろうということ
5.先生も「もらえない側」の男子だったこと
6.もらえない男子はさみしいであろうこと、そしてその気持ちを無視することはできないということ
7.そういうの不公平でよくないでしょ、ってこと
8.よくないことはやっちゃダメでしょ。先生そういうのキライです。先生がキライなことはやっちゃダメでしょ
9.というわけでチョコレートを持ってきた女子はすみやかにここに差し出せ
10.放課後には返してやるから心配するな

以上、高野ティーチャーのバレンタイン十ヶ条。

というわけで女子が真心こめて用意したチョコレートたちは朝っぱらから没収されてしまったのでした(みなさん素直に供出しておりました。今考えるとそこがすごいんだけど)。
真冬の教室の体感温度がさらに10℃くらい下がりました。

まぁなんつーか。
そもそも学校におやつ的なものは持ち込み禁止なわけで、2月14日もなんら変わらない通常のルール適用日だよと言えばいいところ自分はこうだったとか混じえちゃうあたりはいかにも教師っぽいですね。それと、本当にそう思うのならそういう主張は前の日にすべきだろよ。
そのへんもいかにも教師ですよね。スクールゾーンの奥で違反者を待ち構えてる卑怯な警察官みたい。スクールゾーンに入るのが危険なら手前で止めろよ。
ってなんの話だっけ。

あそうそう。
そんなわけで。わかるようなわかんないような教師の理屈で大事なバレンタインチョコを取り上げられた女子満杯の教室は、なんていうか、イガイガした、直径2メートルくらいの鋼鉄のエヘン虫が五、六個、一日中ゴロゴロしていました。
私は高野ティーチャー言うところの「もらえない側の男子」でしたが、もしかしたら今年は「もらえる側の男子」になれるかもしれないじゃん、高野はひでーことするな、と、まったく1ミクロンもなんの根拠もないのにそう思っていました。

そして放課後。
高野テーチャーからチョコレートを返却された女子たちが三々五々、教室に帰還してまいりました。これ以上ないくらいうんざりした、白けきった表情で。
私の前の席の女子も白けきった表情で戻ってきて、大きなため息をつき、

「やるよ」

私の机になにか平たいものをポンと置きました。
市販の板チョコでした。そういう時代でした。
平たい板チョコがペタンと机に乗っています。
その女子が、他のクラスのある男子のことを好きなのは有名でした。

もはや「義理」すらない。

そんな板チョコ。
「不義理をはたらく」という言葉がありますが、私は家に帰って「不義理をいただき」ました。ほんのり苦い味でした。

以上、初めてバレンタインデーに女子からチョコレートをもらった思い出でした。
初めて女子から「バレンタインチョコ」をもらった話ではないところがポイントですね。
それとあと書いてて気づいたのですが、私はなぜ放課後に教室に残っていたのでしょう?
高野ティーチャーからチョコレートを返却されたあと、もしかしたらもしかして大好きなあの子からチョコレートをもらえるかもしれないとはかない望みを抱いていたのでしょうか?
覚えていません。

もっと言うと「大好きなあの子」が誰だったのかも覚えていません。
そう。私には誰かに愛される資格などはじめから無かったのです。

 

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