金さえあれば神にもなれる。長かった全7巻。アレクサンドル・デュマ作『モンテ・クリスト伯』“Alexandre Dumas COMTE DE MONTE-CRIST”を読んだら

「巌窟王」。すごい言葉ですね。さぞ厳格で頑固な王様なんでしょう。
でもそういう話じゃないんです。
無実の罪で捕らえられ、過酷な懲役刑に服し、その間に人生で大事なものをすべて失った男の復讐の物語です。
読む前の知識はこの程度でした。
自由の身になったとたんに自分を陥れたやつらをぶっ殺しまくるのかと思ってワクワクしながら読んでいたらそうじゃありませんでした。
自由の身になってからはむしろ静かに淡々と話が進行します。
あれ?



大金持ちになったから「復讐はもういいや」ってことにしたのかな?金持ち喧嘩せず、かな?

エドモン・ダンテスを陥れたやつらもそれぞれそれなりの人生を送ってて、それはそれで落ち着いてたりします。「昔はやんちゃしててあはは」みたいな感じでしょうか。
ダンテスが自由の身になるのは全7巻の第2巻冒頭。このままみんなの落ち着いた生活を延々見せられるのでしょうか?400ページ越えの文庫6冊分も昔のお金持ちの生活を見せつけられるのでしょうか?「過去の恩讐を乗り越えて平穏に生きよ」というデュマのメッセージなのでしょうか?
いえいえそうではありません。
単なる「死」などそんなもの復讐ではありません。迅速な死などむしろ祝福です。

だんだんわかってくるのですが、かつてダンテスを陥れた者たちは周到に追い詰められ、大事なものを剥ぎ取られるように失っていきます。
一方でダンテスは、過去に恩がある人たちを救ったりします。
莫大な財産でやりたい放題。憎いやつらの弱点も、恩ある一族の苦境も全てお見通し。桁外れの大金持ちは人間に対して神のように振る舞えるのです。

エドモン・ダンテス=モンテ・クリスト伯爵には彼なりに倫理観がありますが、それは復讐心で偏向しているため、復讐の対象者本人だけでなく、その周辺の人々の人生も叩き落としていきます。
それもこれも憎いあいつらを最悪の人生に叩き落とすため。そのためにはくっついてる人間を不幸にすることもいとわない。復讐の外科手術。

「大金持ちになればなんでもできるじゃん!スゲェ!俺も大金持ちになりてぇ!なりてぇよぉ!」と思いながら読み進めるのですが(本当はそんなに単純じゃないことも感じながらだけど)、終盤でダンテスは復讐の仕上げを諦めかけたり、大きく後悔したりする出来事が起こります。
彼の倫理観に触れる想定外のことが起こってしまったのですね。
最後の最後にモンテ・クリスト伯爵は善人を救う行為をしますが、ここは娯楽小説の結末をハッピーエンドにまとめたって感じでした。まぁこれがないと陰惨な読後感になったでしょう。

今、某アメリカ大統領の政策や言動を批判する本を読んでいるのですが、倫理観の無い大金持ちは悪魔みたいなもんだな、と思いつつ、モンテ・クリスト伯爵も神の使いとなることを求めながら悪魔的でもあったよなぁ、といろいろ考えてしまいました。

 


blinkkisi

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