日本でいえばゴールド免許。無事故無違反の退役軍人が麻薬の運び屋に!
いったいなぜ?
しかも実話を元にしてるとか。
しかもクリント・イーストウッド監督主演とか。
原題は“The Mule”。なんでしょう?ミュール。
調べたら「ラバ」という意味だそうです。
「なんとかオブなんとか」みたいなタイトルばかり横行する昨今、「ラバ」。
「運び屋」という邦題もそっけない渋さがありますが「ラバ」。
運び屋のスラングなのかなぁ、「ラバ」。
主人公アール・ストーン(クリント・イーストウッド)はおじいさん。園芸の世界では有名人で、その方面では友人知人も多く、一見楽しい老後を送っているように見えます。
でも違いました。
妻との結婚記念日やら娘の卒業式やら誕生祝いやらをすっぽかして仕事に生きて来たアールは妻と娘に愛想を尽かされています。娘の結婚式にも姿を見せません。
娘の結婚式をすっぽかしてから12年後、経済的に行き詰まったアールは園芸農場を差し押さえられ、トラック一台に荷物を積んで立ち退きます。
アールは孫娘の結婚前のブランチに呼ばれ、訪問しますが、歓迎してくれたのは孫娘だけ。後から到着した妻と娘はアールの姿を見ると家に入ることもなく帰ってしまいます。
娘は黙って背を向けますが、妻は過去のあれやこれやを罵り始めます。
ダーティーハリーシリーズなどでも誰かに罵られるのをしばらく黙って聞いているシーンがちょくちょく出て来ますが、眉をしかめて口をちょっぴり開けて黙っている表情は、若い頃と変わらないな、と思いました。
ダーティーハリーなら黙って罵られた後はぶん殴ったり銃を取り出して脅したりしますが、アールはちょっぴり言い返すことしかできません。妻が去った後で「クソババァ」とか聞こえないように言ってます。
なんか普通のおじいさんです。
でも、孫娘だけはおじいちゃんの味方なんですね。やはり国を問わず孫娘はおじいちゃんが大好きなのでしょう。
孫娘はおじいちゃんが大好きなのでしょう。
孫娘だけには好かれているアールでしたが、妻に罵倒され仕事もなく、この先どうしようと思っているところに「運転するだけで金になる」という話が持ちかけられます。
こうして運び屋になったアールが指示された場所に行くと見るからにヤバい連中が待っていましたが、戦争に行っているアールは全く動じず、さらっと最初の仕事をこなして大金を手に入れます。
自分ができることでお金を得られるようになって、しばらくは楽しげなアールでしたが、もちろんそのままでいられるわけはありません。運んでるの麻薬ですから。犯罪ですから。
警察や悪い組織に動きがあり、緊張感が出て来ますが、全体としてはそんなに緊迫していくわけではなく、歳をとってもしょぼくれんなよ、家族は大事にしろよ、孫娘はかわいいぞ、という映画でした。
「人生いいことも悪いこともいろいろありましたが、乗り切って今はそこそこ幸せです」的な人向け映画だと思いました。
1930年生まれのイーストウッドさん、『運び屋』公開の2018年には88歳だったんですね。すげーな。こういう爺さんは免許証の返納とか絶対しないんだろうな。
*『ダーティーハリー4』の感想の時に描いたイーストウッドの似顔絵( →こちら)が、イーストウッドというより小泉純一郎みたいになっちゃったので、今回はがんばるぞ、と気合入れて描いたのですが、なんか諸星大二郎の漫画に出てくる不気味な村人みたいになっちゃいました。深く反省すると共に各方面にお詫び申し上げます。