選択と運が人生を決める。ユッシ・エーズラ・オールスン『アルファベット・ハウス』“Alfabethuset ”を読んだら

「特捜部Qシリーズ」のユッシ・エーズラ・オールスン長編デビュー作『アルファベット・ハウス』を読みました。
何でしょうアルファベット・ハウス。
英語教室の名前でしょうか?
いえいえそうではありません。
それはとんでもないハウスでした。

今回Kindle Unlimited対象の電子書籍で読みましたが、本の長さで650ページだそうです。いつも長いぞオールスン。
(*内容に触れますので注意してください)

アルファベット・ハウス (ハヤカワ・ミステリ) Kindle版

話は1944年から始まります。第2次世界大戦中ですね。イギリス軍パイロットの幼なじみコンビ、ブライアンとジェイムズは作戦中に撃墜され敵国ドイツ国内に墜落。幸い軽傷でしたがすぐに追っ手がかかり決死の逃亡。兵士や犬に追い詰められ、通りかかった赤十字マークを付けた列車に危険を承知で逃げ込みます。

追っ手から逃れたとはいえ敵地を走る列車、とても安心できません。安心もできませんが何か変ですこの列車。意識のない患者を満載しています。
二人は意識のない患者を列車の窓から放り出し、空いたベッドで患者のふりをします。全て生きるためです。

それにしてもこの患者たちはなんでしょう?ナチスの毒ガスとか生物兵器の実験失敗の犠牲者かと思って読んでいましたがそうではないことが後にわかります。

謎のまま列車は走り続けます。読んでいる方もその謎で引っ張られますが、小出しに状況がわかってきます。
ジェイムズはドイツ語堪能ですがブライアンはドイツ語は全くダメという設定でジェイムズ視点とブライアン視点が入れ替わり、ジェイムズ視点でちょろっとヒントが示される、でもブライアン視点に戻るとまた謎が 現れて行き先もわからないままどんどん引っ張られるの繰り返し。
いやホント、列車に乗っている間は「この話、どこへ向かってるんだ?」とずっと思って読んでいました。

列車はやがてある病院に着きますが、二人はそのまま患者として入院します。バレません。
でもこの病院がひどいところで、二人はものすごくひどい目に遭います(この病院の名前が「アルファベット・ハウス」でした)。
病院では嫌なシーンの連続。それが長く続いて緊張しっぱなし。読みたくなくなるくらいです。
読者の「もういいよこんなこと続いたら死んじゃうよ」が極限に達した頃に意を決して一人が脱走します。もう一人とは引き離されていて置き去りにせざるを得ませんでした(どちらが逃げたかはここでは書きません)。

苦労の末、身も心もボロボロになりながら帰国しますが、親友を置き去りにしたことに大きな負い目を感じています。

とここまでが第一部。
第二部は1972年から始まります。28年後、ミュンヘンオリンピックの年ですね。
病院から脱出した人物は社会的に成功し、裕福な生活を送っていました。帰国した形跡の無い親友の生死を気にかけ続けていましたが、脱出し、時が過ぎたとはいえ病院で受けた心の傷はあまりに深く、消息を尋ねるためにドイツに行くなどということはできませんでした。

ところがある状況が彼を再びドイツに向かわせることになるのでした。

という第二部。
それぞれ28年の時を生きてきた第一部の登場人物が再び大量に登場して、事件が起きます。
「特捜部Qシリーズ」も過去の事件が生き続ける構造になっていますが、デビュー作がすでにその構造をしていたのですね。

第二部もなかなかハードな展開になりますが、「特捜部Qシリーズ」ではハードな事件の後に涙を誘うような救いになるようなシーンを用意するオールスンのこと、きっとちょっぴりだけでもエモーショナル具合のいいシーンが待っているぞ、と読み続けましたが。
具合のいい方に行くのかなぁ、と思っていると悪い方に引き戻されと、その繰り返しでふらふらした挙句、とても苦い結末に至ってしまいました。

「著者あとがき」でオールスンは開口一番「これは戦争小説ではない。」と書いています。そして「『アルファベット・ハウス』は人間関係の亀裂についての物語である」と続けます。
戦争から派生した状況が発端となってはいますが、 幼なじみでそれまで共に生きてきたような二人が、病院列車での行動から都度選択が分かれ、偶然や運の積み重なった結果、28年後には遠く遠く離れてしまいました。

「特捜部Q」でもちょいちょい感じる「え?そんな偶然あるの?」という展開もありましたが、登場人物がハードにひどい目に遭うので「なんかまぁいいか」という気持ちになるのも「特捜部Q」と同様でした。

苦い苦い後味の小説ですが、緊張感が長く続く、なんていうか “力のある” 小説だと思いました。おかげでヘトヘトだ。

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