少し前に映画版の感想を書きました( →秋のアート映画劇場2024『哀れなるものたち』“POOR THINGS” を観たら)。映画鑑賞後、原作小説があることを知って「いつか読む」と映画の感想を締めていますが、思ったより早く読むことになりました。それも珍しく紙の本で。映画版鑑賞時「この映画すげーな」と思いましたが、原作はもっとすごいというか独特というか怪作というかトリッキーでした。
哀れなるものたち (ハヤカワepi文庫)
“POOR THINGS” by Alasdair Gray 1992
書店で偶然見かけ、ぱらぱらっとめくり、「ああ、これは紙の本で読むべきだな」と思いそのままレジへ行きました。
文字中心の本は電子書籍で読むことが多いのですが(文字の大きさを変えられるのと辞書機能はホントに便利、っていうか視力が弱くて基礎学力不足の私のような爺さんには必須)、この本は個性的な挿絵や図版があるのと、組版も凝っていて、紙の本として手元に持っていたくなる気持ちにさせられました。
用紙もちょうど良い厚さで、しっとりして、「読んでめくる」という動作が心地よく感じられるような紙でした。これは良かった。
厚すぎたりパリパリしたような紙だと気持ちよくないですよね、読んでて。
あと、カバーが2枚着いてました。外側は映画ビジュアル仕様、内側はアラスター・グレイ画のイラスト仕様。
映画化原作として売りたいけど本文中の重要なシーンを描いている著者の手によるイラストも捨てがたい、つか捨てるわけにいかない。悩める早川書房の結論がダブルカバーだったのでしょう。外カバーは太い帯だと思えばいいや、と。
文庫判で500頁以上あるので映画には出てこない人物やエピソードがあって当たり前ですが、読んでいて映画版の見事さというかうまさに随所で感心していました。こんな癖のある小説をよくもまぁイメージを壊さずに映画に転写したものだと。
ところが。
400頁を越えたあたり(415頁からだった)でそんな感想など吹っ飛ばされてしまいます。なにをわかったようなこと言ってんだ、と。
読み終わってしまえばそこまでに書かれていたことと415頁以降に書かれていたことは、共通の問題について「時代が変わっても良くなってはいないでしょ」という意味を含んでいるようにも思えますが、著者(アラスター・グレイ)の意図がどうかは定かではありません。
「訳者あとがき」にこの不思議な本を読み解くヒントがあるのかもしれませんが読んでません。しばらく自分で考えたいので。
映画と原作小説の関係でいえば『ネバーエンディング・ストーリー』と『はてしない物語』がちょっと似ているでしょうかちょっと違いましょうか。
ミヒャエル・エンデは映画版が気に入らなかったそうですが。
ちなみに原著は1992年刊、日本語翻訳版は2008年刊、アラスター・グレイは2019年没、映画は2023年公開です。
久々の紙の本でしたが、不思議な読み応えと意表をつく構造と凝った組版と最適な用紙のおかげでとても良い読書体験でした。
しつこいようだけどいい紙だったなぁ。でも初版と再版以降で紙を変える出版社もあるので要注意なんですけどね(早川書房がどうかは知りません)。
コメント