589 工場長の誕生

誰にでもあこがれの肩書きというものがある。

妻は、
「研究所とかで働いてみたいよね。所長!とか呼ばれたいね」
という。
何を研究するかは問題ではないらしい。
ただ、「研究所」と呼称される職場で働いて、できれば「所長」と呼ばれたいらしい。
「光子力研究所の所長」みたいのをイメージしてるかもしれない。

「CEOとも呼ばれてみたいね」
とも言う。
「かっこいいよねCEO。どういう意味?」
CEOというのは「経営最高責任者」という意味だと教えてあげると、
「責任かぁ。責任はちょっとなぁ」
などと言う。
責任はちょっとか。「所長」には責任は無いらしい。

「工場長もいいよね」
と妻は言う。
私は職業がら、「工場長」と呼ばれる人を何人か知っているが、とっても大変な役職なので、絶対にやりたくない。
前の会社で、ある役員に「次の工場長は君だ」とか言われていたが、いやなのではぐらかしてたら、ある日その人から「お前なんかもう使う気ないから辞表書け!」と言われて会社を追い出された。
もうわけわかんない工場長って。

「工場で何作るの?」
妻に訊くと
「うーん、袋かな」

妻は袋を作る。
ユザワヤとかサンキでよさげな布を買ってきて、うわばき袋や、ならいごとバッグや、多用途巾着袋やら。
私も先日、ゼンタングルの本を見ながら描いたイニシャルを刺繍した巾着袋を作ってもらった。

そしてこのたび。
妻が作った手作り袋を、ネットのなんかそういうの売れるサイトに登録して販売することになった。
出品はまだこれからだが、ちゃくちゃくと袋作りと、情報収集に努めている。

ミシンを操作する妻に、

「工場長、仕事は順調ですか」
と声をかけると、
「おう」
と答える。

目をキラキラさせながらせっせと布を裁断し、ミシンにかけ、袋を作り続ける妻。
工場長というより「女工さん」だが、それは言うまい。目がキラキラしてるから。

コメント

  1. 匿名 より:

    うーん。わかる~ワタシも研究所に憧れてきたね。
    今の会社作るとき社名を考えるというフェーズがあって結構悩んだ。
    とつぜん『ナイス研究所』という案が浮かび、これはナイス!と思ったのに軽く却下されたよ。そんな名前じゃ電話とるのが恥ずかしいだろって。グッスン

    • オトー より:

      『ナイス研究所』なら、電話をとって「はい。ナイ研です!」って言えますよねぇ。私なら言ってみたい。
      もしくは「はい、こちらナイス研究所」でもいいな。「こちら」が似合う会社『ナイス研究所』。カッコイイ!

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