「友だちがなにより大事とかよくいうけど、今日はそれを思い知ったよ」
高校の入学式の帰りにアヤがつぶやいた。
同じ中学からここへ進学したのはアヤを入れて3人だけ。2人とも男子で他のクラス。
入学式の後の教室でのあれやこれやの間、知らない人間に囲まれて心細かったのだろう。実感のこもったひとことだった。
他の新入生たちを見ると、何人かで語り合っているグループもいて、そういう光景に、よけい寂しくなったのかもしれない。
「自分から友だちになろー!って近づけばいいじゃん。プリキュアの主役の子みたいにさ」
「できるかー」
言い返す言葉にも力がこもっていない。
ちょっと不安になってしまったようだ。
私は大人になった今でも人見知りで情けない限りだが、中学も高校もいちばん多数派のかたまりで入学だったし、大学も寮や部活の人間関係があっという間にできたので、友だちの作り方なんてアドバイスできない。
友だちってどうやって作るんだ?
翌日。通常の登校初日。
会社から帰ると、友だちと4人でお昼を食べたとの報告。しかもアヤから声をかけたそうだ。
なんだ。
あんた大丈夫じゃん。
さらにその翌日。
今日は8人でお昼を食べたとのこと。増えてるよ。倍に増えてるよ。
しかもLINEのグループが、
1.同級生全体
2.同級生女子
3.クラス全体
4.クラス女子
と、次々に発生し、メンバーの重複はあるだろうが、あっという間に100人以上になったそうだ。おそるべし、現代高校生コミュニティ。右肩上がりに膨張していく。
明日は16人と昼食、あさっては32人、日々倍増。10日後にはなんと2,000人以上の大勢力。「男一匹ガキ大将」もビックリだ。
そのころにはLINEグループ「日本全高校生トークルームJKDK(女子高生男子高生)」ができているだろう。そしてもちろんみんなで私が作ったスタンプを使っているのだ。みんなだぞみんな。みんなが俺のスタンプ全部購入。すげー。俺すげー。少子化とはいえ日本の全高校生だ。しかも毎年増えてゆく。大儲け。とてつもない大金持ち。よし。金さえあればもういいや。友だちなんかいらねーや。アッハッハアッハッハアッハッハのアー
しかし。
膨張したコミュニティはやがて腐敗、分裂し、血で血を洗う闘争に突入してゆくことを、ブラック親父はまだ知らない。
[つづく]
嘘。つづかない、こんなの。
というわけで。
娘を心配するいいお父さん仮面から始まって、最後はブラック親父の本性むき出しで華麗に着地。
テクニシャンと呼ばねばなるまい。