よく物につまずく。 よく物を踏む。 電気コードに足を引っ掛ける。
娘が床に何かを、たとえば筆箱を置きっ放しにしていると妻が言う「そんなとこに置いとくとお父さんに踏まれちゃうよ」。そして必ず踏む。
そんなわがまま言ってると怖い鬼さんが来るよ、みたいな言い草だが、その場合鬼は絶対やって来ないが私は必ず踏む。
先日もクッションにけつまづいた。クッションにフカっとつまづいて転びそうになった。屈辱的だった。
私の弱点は足元である。
じゃ、他に弱いところは無いのかと問わないでくれ。心とか大丈夫かと。
しかし今日のところは足元問題に集中させてくれ。
歳のせいか? それももちろんあるだろう。足を上げてるつもりで上がってない。子供の運動会で張り切って走ったけど頭で思ってるほど足が動いてなくてバランスを崩したあげく転倒しちゃう、みたいな。
俺は毎日運動会の張り切り父さんか。
年齢による衰えはあるだろうが、思い返せば若い頃から足ばかり怪我していた。
一番多かったのは足首の捻挫で、柔道の受身の練習をしていて捻挫したこともある。おかしいだろそれ。
さらに言うと最新の捻挫はほんの一年半前である。段差でグギっとなった。あん時ゃ痛かった。
今のところ人生唯一の骨折も右足小指であった。なんか道路の舗装が途切れているところに足をとられてポッキリだった。
先日、例によって家の中で何かにけつまづいた私を見て妻が言った。
「それはさぁ、すり足が原因なんじゃない?」
すり足。
柔道、剣道、相撲、日本の格闘技の基本動作、すり足。
あまり足を上げると、上げた足を下ろす瞬間を狙われて危険なのだ。だからできるだけ足を上げず、地面をするように歩く。それがすり足。
そうか。すり足か。 私は日常でも隙の無い動作を心がけ、すり足で移動していたのだ。常在戦場だ。
しかしその結果、筆箱やら小さくて硬い何かを踏みつけ、電気コードに足をからめ、クッションにけつまづいていたのだ。フカっと。
思えば、柔道場の畳の上には筆箱も電気コードもクッションも無い。畳しかない。畳のへりに足を引っ掛けた記憶もうっすらあるが、基本障害物は無い。
対して。
日常の場は障害物だらけである。足を下ろす瞬間を狙ってくる敵はいないが床は小さな敵だらけである。
ゲーム機の充電アダプター、シャープペンの芯のケース(しかも空っぽ)、なぜそこにあるのかわからない今は使っていない携帯ストラップ、もう敵だらけ。 外に出れば歩道の段差、側溝のふたの穴のところ、工事跡の盛り上がりなど危険だらけ。殺す気か。
新手の敵が現れたら新たな対策。常在戦場である。
ということで。 今日から私は、歩くときは常に足元に高さ5センチメートルの障害物があると想定して足を上げるという画期的歩行を開始した。
10センチだと上げ具合がちょっと目立つので5センチで。 ホントは7センチくらい上がってるような気もするが、5センチのほうがきりがいいから5センチで。
ユーミンの歌にもあったでしょ?5センチがどうかしたって歌。だから5センチで。ぜひそれで。