「おもしろいおもしろい」という声があちこちから聴こえてきて気になっていたのですがようやく読みました。
3部構成の第1部では、相互に関連が無い人々のエピソードがボコッボコっと語られます。
作家とか歌手とか軍人の家族とか殺し屋とか癌でもうすぐ死んじゃう人とか。
その合間に、パリからニューヨークへ向かう飛行機が遭遇した異常事態エピソードが挟まります。
全部で409頁の小説ですが、第1部ではバラバラのエピソードが組み立て途中のレゴブロックみたいに並びます。
語られていた人たちは皆、異常に遭遇した旅客機の乗客だったということが徐々にわかって来て、やがて過ぎたあたりで旅客機と彼らに何が起きたかわかる構成になってます。
そこそこ長い小説ですが、場面がころころ変わって、相互のつながりが見えてきたりするので退屈しません。読みやすい。
第2部は、異常事態に遭遇した本人たちと、彼らの国籍であるアメリカ、フランス、中国といった国家がどういう対応をしていくかというお話になっていきます。
第1部でバラバラの部品だったブロックを組み合わせて完成品が想像できるような感じ。
マクロンとか習近平とか実名で登場しますが、アメリカ大統領だけは名前が出てきません。現実の任期とは違いますが誰のことかは明らか。
「口を半開きにしたハタ(魚の)」みたいな表情だとか、科学者が難しい話をしている時はポカンとしているくせに、自分が知ってる単語が出てくると過剰に喰いついてきたりとか、完全におちょくってますね。後半に行くほどおちょくりが興に乗ってるように思いました。ちなみに著者はフランス人。
第3部では登場人物たちの反応が内面まで細かく描写され、第2部まではプラスチックの乾いた製品だったものが有機的にドロドロ癒着してくるような感じがしました
緻密な三幕構成で、長いけれどうまくやればすっきり面白い娯楽映画になりそうだと思っていましたが、第3部はちょっと捩れてるかな。
読む前はもう少しわけわかんない異常さを期待していましたが、異常に対応する人間を丁寧に丁寧に描いた緻密に計算された小説でした。
あまり読んだことはありませんが、筒井康隆の、状況がエスカレートしていく系の小説にちょっと似てるような気がしました。
あ、あと、結末で「トランプを大統領にしちゃダメだぞアメリカ人」という著者のメッセージが聴こえたような気がしました。空耳だったかもしれません。