少し前に感想を書いた『ダーク・マネー』や『プログレッシブ・キャピタリズム』では、アメリカが格差や分断といった大きな問題を抱えている原因や、そこで起こっていることが書かれていましたが、読みながら思ったのは、「で、日本はどうなんだろ?」ということでした。
なんか似たようなことになってるよね、と(参照 →清々しいほど強欲。ジェイン・メイヤー『ダーク・マネー』を読んだら)。
で、この本。アメリカで起きていることは世界中で起きていて、つまり日本でも起きているんだよ、その原因はね、ということがわかりやすく書かれていました。
まず「はじめに」で、日本の今の状態を、
「労働の不安定化による生活の安全の破壊、格差問題という名で偽装された貧困化、ポスト工業化社会に不適合となった社会保障制度の持続不可能性など、「社会問題」が噴出していることだ。」
とまとめ、
「この現状をさらに深刻にしているのは、近年、そうした「社会問題」が隠しがたいものとなっているにもかかわらず、政治が長期的な視野に立った抜本的な解決策を実施することはおろか、構想さえできていないことだ。コロナ禍は改めてこのことを確信させてくれた。」
と続けます。
さらに、「思い起こせば、第二次安倍政権はこうした日本の象徴であった」という記述が続き、安倍政権が好条件を備えていたにも関わらず「社会問題」を解決するには程遠く、それどころか…と、安倍政権を低評価しています。
とても腑に落ちる低評価なのですが、安倍政権を非難するのがこの本の目的ではなく、なぜそうなってしまうのか、とわかりやすい解説が続いていきます。
そもそも民主主義とは何か?
「代表性民主主義=民主主義」ではない
だから「選挙=民主主義」でもない
もう代表性民主主義は機能していない、なぜなら…
と話は続きます。
なんでしょう。
独裁者や民主的でない政権を倒したあと「民主的な選挙」が実施されれば民主主義の国が出来上がる、はずじゃなかったのか。
そういえば世界のあちこちでいろいろ失敗していますね「民主化」とやら。
民主主義国で格差が広がり、分断、貧困を放置すると「中国式統治モデル」へ傾倒していく可能性があるとも書いています。
富裕層しか自由や豊かさを享受できないのなら民主主義なんかいらない、自由を制限されても経済的安定が得られるならその方がいい、というわけです。
著者は中国式統治システムの問題点や、それに誘惑される危険性にも言及していて、誠実で信用に足る本だと思いました。
丁寧でわかりやすい本。腑に落ちる気持ちよさ。
「なるほど」と納得する記述が多く、大量にハイライトしちゃいました。
政治家の言動にイライラすることが多い人は必読だと思います。奴らがなぜイラつく行動をとるのか(とれるのか)よくわかります。
そして最終章では代表制度の改革のために何をすればいいのか、実例を挙げてヒントが書かれています。
SNSで誰かの悪口を言ったりぼやいてたって何も解決しないみたいですよ。