なんでしょうこのタイトル。間違って何度もコピーペーストしちゃったんでしょうか?
そうではありません。こういうタイトルなんです。原題は“TIK-TOK”なので、日本語版だけしつこい感じで攻めてます。『チク・タク』ではなんか弱いと誰かが判断したのでしょうか。
私だったら『チク・タク・チク・タク・チ…』にしますけどね。
ジョン・スラデック『チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク』“TIK-TOK”を読んだら
原題はあのSNSみたいですが、原著は1983年発行なので、例のSNSが話題になった時に「ああ、これってスラデックだね」と言ってみんなに「めんどくせぇなこいつ」と言われるのが正しいSFファンというものでしょう。
なんて話はどうでもよくて。
「チク・タク」というのはロボットの名前で、ロボットが普通に社会で働いている時代が物語の舞台です。
ロボットによっては人間より頭脳も体力も優れているので、危険防止のために「アシモフ回路」が組み込まれています。
「SFファン三大心のふるさと」のひとつ、「ロボット三原則」を守るための回路ですね。
ところが主人公のチク・タクくん、この回路が作動していません。
そんななので、次から次へたくさん悪いことします。血も涙もありません。ロボットだから。マシーンだっから。燃える友情なんかも知ったこっちゃありません。
巧妙に悪いことしますが、バレても罰されることはありません。ロボットなので法律が適用されないのです。「道具」としか扱われないのです。
道具としてではなく、罪には罰を与えて欲しくて悪いことしてるみたいなことも言いますが、それだけじゃないよな、と段々わかってきます。
時間が前後するトリッキーな構成で、チク・タク氏の心(的なもの)の時系列の変化はわかりにくいのですが、悪さのスケールは時間を追ってエスカレートしていきます。
人種差別事件のメタファー(かなり直接的だけど)かな?と思う描写が多々ありましたが、時代が下るにつれそれでは収まらず、もうなんだろ、かなり大きな「それ人間がやってることじゃん」という罪を犯します。「良心」が欠けているとどこまでも「やっちゃう」ということを突きつけてきます。
ジョン・スラデック作品を読むのは(少なくとも長編は)初めてなんですが、黒っぽくて冷静なユーモアの溢れた文章に、あるところではヴォネガット、またあるところでは筒井康隆が頭に浮かびました。
チク・タクが自分の経営する病院から患者を追い出す場面なんか「デジャヴ・オブ・筒井康隆」でしたよ。ひょっとしたら翻訳者は筒井康隆ファンなのかもしれません。
というわけで筒井康隆ファンにはおすすめの一冊でした。
あ、あと最近何かと話題のAIに関して考えるのにもいい一冊だと思いました。1983年の小説ですが、AIの行く先にはこの本に書かれているような未来がある程度の割合で含まれていると思います。いやホント(私は全く悲観していませんが。むしろドンと来い、と。もっと行け行けと)。
ちなみに「SFファン三大心のふるさと」のあと二つは、「タイムパラドックス」と「冷たい方程式」です。
他にSFファン心のふるさとがあったら教えてください。
「十大心のふるさと」くらいまでは増やしてもいいんじゃないかな、と思ってます。