『万物の黎明~人類史を根本からくつがえす』“The Dawn of Everything” を読んだら

「全記録」とか「全怪獣・怪人」とか「全作品」とか、「全てここにあります」みたいなタイトルの本に弱いのですが(大抵私を興奮させるブ厚い本だし)、これはなんと「万物」。あるジャンルに限った「全」ではない「万物」。この世の全て。そして「黎明」。漫画『火の鳥』で初めて知った言葉「黎明」。夜明けという意味ですね。英語で “dawn”。ゾンビ映画のタイトルでよく見かける単語、さらに映画『2001年宇宙の旅』の第一章が “THE DAWN OF MAN”ですね。
なんかもう期待に震えちゃいます。

デヴィッド・グレーバー , デヴィッド・ウェングロウ (著), 酒井 隆史 (翻訳) 『万物の黎明~人類史を根本からくつがえす』“The Dawn of Everything”

なんていろいろ言ってますが実は電子書籍で読みました。ダハハ。
注が多い本で、そういう本は電子書籍の方が読みやすいのと、難しそうなので、気合い入れて読むには辞書機能必須だと思ったからです。それと厚くて重い紙の本だと通勤時に読めないからです。はい。もう「ブ厚い本好き」失格ですね。

人類学と考古学の最新情報を元に、人間の社会ってこんなのもあったんだよ、定説通説にとらわれちゃダメだよ、みたいなお話。最近見かける「要アップデート」ってとこでしょうか。
「勝者が歴史を作る」とは昔からよく聞きますが、「啓蒙」とか「宗教のご都合」やらのために学者も偏った論文を書き、都合の悪い論文を無視するということがあるみたいです。
そういうのダメでしょ、ということも教えてくれる本でした。
アメリカ先住民とヨーロッパ人の出会いで何が起こったかが書かれていますが、土地の収奪や植民地支配を正当化するために、「未開の先住民」を導くため、とか文明化するため、というような理屈が必要だったみたいです。この理屈、古今東西どこでも見かけますね。
でも実は先住民の社会は平等で公平で、富の集中が権力をもたらしたり、さらにそれが独裁者を生み出すことを防ぐ洗練された構造だったことを丹念に証明していきます。そのために、誰かの都合で無視されたり価値を貶められた本来刮目すべきだった論文をサルベージしてゆきます。反対に賛成できない論文も多数挙げていて、その結果大量の注(そして参考文献)が発生しています。

この大著、一切の補助金を受けずに書かれたそうです。不偏不党といったところでしょうか。『ダーク・マネー』とか読んだ後ではこれがどんなに大事なことかよくわかります。

執筆中に自分たちが書いているテーマの有益さに気づき(そして多分興奮して)、筆が止まらなくなった二人の著者でしたが、最初の本はどこかで終わらせなければならず、三冊以上の続編を計画したそうです。
しかし残念なことに著者の一人、デヴィッド・グレーバーが本書発行直前に亡くなったため、その計画は果たせなくなりました。
グレーバーはあの「ウォール街を占拠せよ」運動に関わっていた活動家でもあったそうで、本書中で「富の集中」から始まる危険性、 →権力 →格差・分断 →独裁の流れを何度も指摘します。そしてその回避の可能性を。あと三冊あれば現代の問題も輝く剣でズバッと斬ってくれたかもしれないと思うと残念でなりません。あと3000頁くらい読むことになったでしょうが。

頁といえば、Amazonの表記だと電子書籍版は1097頁ですが、紙の本は708頁になってます。なぜでしょう?紙の本の脚注は見開きページの末に配置されていますが、電子書籍は章末にまとまっているのでその違いかなぁ、と思いましたがそれで400頁も差が出るのかなぁ。ちょっと不思議。

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