モノクロ映画の味わい。開高健『片隅の迷路』を読んだら

実際にあった「徳島ラジオ商殺し事件」をもとに書かれた小説です。
うっすら名前は聞いたことがありました、「徳島ラジオ商殺し事件」(Wikipediaこちら →徳島ラジオ商殺し事件)。
冤罪事件ですね。恐ろしい。
開高健は徳島まで取材に行き、「事件の推移については、だいたい、事実をそのまま追って」いるそうです。
事件は1953年、この『片隅の迷路』は1962年刊行です。
その時の帯では「長編推理小説」とされています。
「推理小説」というジャンルの幅の広さはよく知らないのですが、『片隅の迷路』は「推理小説」というジャンルの中央からはそこそこ外れてるように思いました。

事件そのものは繁盛している農機具商の主人が刺し殺されるという小さなものですが、真相を追ううちに権力の壁にぶつかる。ただその権力も国家の機密とか大きなものではなく、権力を持つ者の面子とか保身とかが一般市民の人生を狂わせて行く。
関わった人間が皆不幸になる嫌な展開です。
途中、事件を合理的に検証してゆく先生が出てきて、「名探偵登場か⁈」と思わせますが、その検証もすべて無視されてしまいます。

最後にはほんの少しだけ希望をつなぐような書き方になっていますが、実際は絶望のまま終わったんだろうなぁと思うと気の毒になってしまいます(1985年に冤罪は晴れます。事件発生が1953年なので35年かかってますね)。

各場面はモノクロ映画のような味わいでした。と思ったら映画化されていたそうです。
ソフト化もされてます。VHSで。

証人の椅子

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