イラク戦争に従軍した青年兵士(19歳)のどうしようもない違和感。ベン ファウンテン (著)『ビリー・リンの永遠の一日』“Billy Lynn’s Long Halftime Walk”を読んだら

なぜかしら
読書がはかどる
リモートワーク

はい。幸せって思わぬところにあるものですね。
あちこちに差し障りがありそうなのでこれ以上は触れませんが、こんな本を読了しました。

ベン ファウンテン (著) 『ビリー・リンの永遠の一日』

イラク戦争に従軍した19歳の兵士ビリー・リンの戦場での行動(危険を冒して戦友を救う場面)を撮影した映像がテレビのニュースで流されて、所属分隊ごと英雄扱いされ、一時帰国した約二週間のお話。

彼らはブラボー分隊と名づけられ(正確には間違っているが、映像を流したフォックスニュースがそう呼び始めて定着した)、“凱旋ツアー”として全米各地を回ることになる。
“凱旋ツアー”のクライマックスはテキサススタジアムでのプロフットボールの試合でのハーフタイムショーへの「出演」。
そこに至るまでに、ビリーが従軍したいきさつや家族との関係、ブラボー分隊の活躍を映画化しようとするもくろみ、などが並行して語られます。
三人称ですが、ほぼビリーの視点と内面で書かれていて、三人称で書かれた一人称小説なのかもしてません。

小説ではイラク戦争に関する俯瞰的な描写はありません。ビリーの「英雄的行動」もビリー視点で断片的に回想されるだけで、何がどうなったのか詳しくはわかりません。ビリーに接してくる人々の言動やそれに対するビリーの反応や内面が淡々と書き綴られていきます。

訳者あとがきによると、著者のベン ファウンテン は、2004年11月25日にテレビ放送されたテキサススタジアムでのアメリカンフットボールの試合のハーフタイムショーを見てこの小説の構想を得たそうです。
物語はフィクションですが、ブラボー分隊が出演させられるハーフタイムショーはこの時のものを想定しているようです。

2003年の「イラクが大量破壊兵器を隠し持っている」疑惑(後に否定される)から始まって、3月に軍事行動、4月にフセイン政権崩壊、イラクを占領統治、12月にはフセイン大統領を拘束、2004年は「イラク復興」の時期に入ります。
しかし各地で戦闘は続いていて、民間人の犠牲者や、アメリカ軍による捕虜虐待などの問題が報道されたのがこの頃です。

ビリー・リンがイラクに派兵されたのはこういう時期でした。Wikipediaの年表を見ると、2004年は暫定政権とその後の選挙へ向けての動きと、それに反対する武装勢力との衝突やテロ事件が頻発しています。
11月17日には米兵の死者が1200人となります。そして、この「11月中の米軍の死者が137名となり、この年4月を超えて過去最高。」という記述もあります。
ブラボー分隊の戦闘はちょうどこんな時期に起こったのでしょう。
開戦から20ヶ月。兵士たちはともかく、国内で平和な日常を過ごしている人には遠くなったイラク戦争。
人々は自分の思惑のために彼らに接してきます。讃えることで自分の愛国心を示そうとしたり、彼らの行動を映画化してひと儲けしようとしたり。
この映画化の話も最初から最後まで話題になっていきますが、帰還兵士たちの想いとはずれていくばかりです。

そして、ビリーたちはこのお祭り騒ぎの後、イラクへ戻ることになっています。
「英雄」たちは命がけの、危険な戦場に戻るのです。
原題の“Billy Lynn’s Long Halftime Walk”は、この二週間がビリーにとってのハーフタイムだったということを現していますが、邦題の「一日」は、戦友を失った戦闘のあった「一日」(が繰り返し思い出される)というような意味で付けられていると思います。

ビリーにはこのスタジアムで “ちょっといいこと” が起こりますが、それだけに戦場に戻っていくという悲劇が際立ちます。
ビリーはその後10ヶ月イラクで従軍することになっているのですが、10ヶ月というと、2005年の9月頃までということになります。先ほどに年表によると、その間にもテロや戦闘は続き、混乱の中選挙が行われ、憲法制定のための国民投票が行われています。そんな中にビリーは帰っていったんですね。
(ちなみにイラクから米軍が完全に撤退したのは2010年8月、原著は2012年発行です)

本を買った時には知らなかったのですが、この小説は2016年に映画化されていました。『グリーン・デスティニー』(大好き!)のアン・リー監督ですね。
これは観たいなぁ、と思ったのですが、Amazonプライムビデオでのレンタル、Netflixの配信とどちらにもありました。

ビリー・リンの永遠の一日 (字幕版)

小説を読み終わったばかりなので、ちょっとだけ時間をおいてから観ようと思います。
リンクは字幕版の映画ですが、吹替版もあります。小説では兵士たちの軽妙なやりとりが大事な要素でしたので、翻訳と吹き替えがしっかりしていれば吹き替え版の方がいいかもしれません。

blinkkisi

コメント

  1. […] る→『グリーン・デスティニー』 →そういえばNetflixに続編だかがあったぞ。という個人的連想で鑑賞(参照 →『ビリー・リンの永遠の一日』“Billy Lynn’s Long Halftime Walk”を読んだら)。 […]

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