誰が買ったんだか(たぶん息子だ)、かなり前から文庫本が家にあると知っていたけど読まずにいた東野圭吾の『天空の蜂』を読んだよ。
なぜ読まなかったかというと、「なんかヘリが強奪されるお話」と思い込んでいて(そうなんだけど)、あまり興味が湧かないまま、読書の優先順位の低いところに落ち着いていたからだ。
なぜ読む気になったかというと、映画の予告を見て、「あーそういう話なんだ」と興味を持ったからだ。
文庫本のカバーの紹介文をちゃんと読めば「そういう話」だとちゃんと書いてあるのに優先順位が低いままだったのは、おそらく、福島の原発事故前にその紹介文を読んだからだと思う。強奪された無人ヘリが原子力発電所の真上でホバリングしているという設定にピンとこなかったんだろう。あー、原発ね、事故があったら危ないよね、そーゆー舞台設定なのね、という、距離感のある受けとめかた。
この、3.11以前の平均的日本人の原発に対する「ピンとこなさ」は、まさにこの小説のテーマで、物語中それに触れる言葉はいちいち耳が痛い。
しかし「作家」というのはすごいんだなぁと思い知った。
1995年に初版の単行本、1997年にノベルズ、1998年に文庫本の初版、手元にあるのが32刷で、奥付の日付が2007年3月9日。
その間加筆や修正はあったかもしれないが、3.11後に平均的日本人にも広く知られ、考えられるようになった原子力発電に関わる必要性、危険性、問題や矛盾が網羅されている。
政府や原発関係者の、事故に対する考え方や基本的な姿勢、対応などを読んでいると、2011年の3月14日あたりに戻ったような気になる。
パソコンやネットがらみの話題も出てくるが、ちょっとだけ触れられるネットの雰囲気みたいなものも今読んでも違和感なくてすごいな、と思った。
Windows95が出た年にこんな小説が出ていたのだ。Macなら漢字Talk7.5あたりだ。
テーマの先見性も素晴らしいが、なにより面白いので未読の方には強くお薦めします。文庫で620ページくらいあるけどグイグイ読めます。
映画はどうなるんだろ?
グイグイ読めるとはいえ620ページ。事件自体は一日の出来事だが、あちこちでいろんな人がいろんなことをして、過去の出来事も描写されて説得力のある物語になっているので、映画でさらっとやっちゃうと「そんなうまくいかねーだろー」という印象になってしまうかもしれない。地道な刑事の捜査が犯人に迫るあたりとか。
で、三分の二くらい読んだところで、よせばいいのに映画の公式サイトをのぞいちゃったんだよね。よせばいいのに。誰が誰の役なのかなぁ、くらいの気持ちで。
で、思わず読んじゃったところに、この映画が2015年の今作られる意味というか、原作が書かれた時には決して盛り込めなかった設定が書かれていて、あー!って。
ダメだよ。ひょっとするとそれって映画のキモじゃん。知らずに映画を観たかったよ。
ということなので、みなさんも本を読む時や映画を観る時は余計な情報に触れないように十分注意してくださいね。
天空の蜂 (講談社文庫)
東野 圭吾
講談社 1998-11-13
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コメント
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[…] 家にある未読の本を読もうのシリーズ第2弾(第1弾は→『天空の蜂』を読んだよ)。湊かなえ著『告白』(双葉文庫)を読んだよ。 […]