家にある未読の本を読もうのシリーズ第2弾(第1弾は→『天空の蜂』を読んだよ)。
湊かなえ著『告白』(双葉文庫)を読んだよ。
シングルマザーの教師の幼い娘が殺された事件をめぐって、娘を殺された教師、その教師が担任していたクラスの生徒三人、生徒の母親一人(とちょっぴりその姉)がそれぞれ一人称で告白していくお話。
同じ事件をめぐる話でも話者によって印象がガシャガシャ変わる。
殺人という大きな事件でなくてもきっと同じで、真実なんてつかもうとすればするほどヌルヌルとすり抜けて、固定化なんてできないんだろう。
真実が不定形でヌルヌルしてると落ち着かないのでみんなでせっせと釘を打ち込んで固定化しようとするが、みんなで好き勝手に釘を打ち込んで部分的に固定化するものだからもう本当にわけわかんない形になっていく。
誰かがいい具合に打った釘で固定化された部分を、現実とか真実とか思っていられれば幸せかもしれないが、ここで告白している者はそれぞれの事情で「いい具合」の釘が抜けてしまって、再度釘を打ち直していくが、どうもみんなうまくいかなくて誰かの釘と干渉してしまったり、せっかく打った釘を誰かに抜かれたりしてしまう。
そういうこともあるよね。
グズグズに崩れていく周囲の現実を立て直そうとするけどうまくいかなくて、ヌルヌルすり抜けてっちゃうから、質が悪くても手持ちの釘を打ちまくるしかないような時。ひょっとしたら釘ですらないものを、手を血まみれにさせながらむりやり突き刺すしかないような時。
でも現実なんか固定化できるわけないんだよね。みんな目盛りの違う物差し持って日々生きてるし。
ってなんの話だっけ。あ、『告白』か。
みんなそれぞれの視点で語っていて、メインの事件で「何が起こったか」がわかってきたその時にはその周辺の出来事がまた複数の視点で語られて、という構造なので、やっぱり表面的な出来事はひとつでも、多層的に干渉しあって、カッチリした輪郭を描くわけではない。それぞれに嘘や虚飾が混入している可能性もある。
最終的な印象は、六つの楽器で演奏されたひとつの曲を聴き終わった後に近いかもしれない。
あまりミュージックな人間でない私が音楽に例えるのは気がひけるけどさ。
これはこれで方式なので、この方式でもっと後味のいい話とか、大笑いできるコメディとかあるといいかもしれない。コメディはありそうだな。
『告白』は映画化もされていて、私が読んだ文庫版には中島哲也監督のインタビューも載っていたが、これがどんな風に映画になってるんだろう。いつか観てみよう。
告白 (双葉文庫) (双葉文庫 み 21-1)
湊 かなえ
双葉社 2010-04-08
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