“傷ついた少年もの” の傑作。映画『怪物はささやく』“A Monster Calls”を観たら

そんなジャンルがあるのかどうか知りませんが、愛する肉親の死や、いじめで “傷ついた少年” が主人公の映画はけっこうあります。
『スタンド・バイ・ミー』、『ネバーエンディング・ストーリー』、ちょっとひねってる『バンデットQ』。『スーパーエイト』もそうですね。
『スターウォーズ』シリーズもそんな気配あるし、範囲を「大人になれない少年の心を持ちっぱなしのおっさん」に広げると、娯楽映画の3分の2くらい含まれちゃいそうな気がします。数えたわけじゃないけど。
それだけ “傷ついた少年” は人の心を惹きつけるのでしょう。

この『怪物はささやく』も、そんな“傷ついた少年もの”映画でした。そりゃもう最初から最後までどっぷり。

映画によっては、“傷ついた少年” は、観客の感情移入のため(ツカミってやつですね)の道具にされて、映画の中盤以降は薄れていく場合もありますが、この『怪物はささやく』では、主人公の少年コナー(12歳)は全編傷つきっぱなし、というか、“傷ついた少年コナー” の傷つきっぷり、そこで何があって彼がどうしたか?の映画でした。

それだけだとたぶん息詰まって見ていられないことになっちゃいそうですが、そこに怪物が出てきます。
この怪物、見た目怖いのですが、この怪物のおかげで、少年の息詰まるような傷つきっぷりも見ていられます。

怪物は少年にいくつかの物語を話して聴かせますが、これがまた「大人の事情」みたいな苦い話ばかり。そしてどの物語にも「死」の匂いが。

怪物は少年に「現実」と向き合え、闘え、そして受け入れろと教えたいようです。少年はそれを拒否して拒否して拒否してそして。

少年がこの世界の苦いもの、自分の中にある矛盾したものを認め受け入れる、観ている方にも苦さがこみ上げてきますが、怪物が語る物語の、そしてこの映画全体の物語の結末は、苦くない、というか苦さを味わって飲み込んだ者にこそたどり着ける感動が待っていました。

還暦が射程に入ってるのにちっとも大人になれないおっさん(私)もこりゃ泣いた。
ラストのあれ、あそこに至るための映画だったと思うけど、なんかもう反則だあれ。

怪物はささやく (創元推理文庫)
 

blinkjitu
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