以前「必見の海外ドラマ」として紹介した『倒壊する巨塔-アルカイダと「9.11」への道』“THE LOOMING TOWER”(こちら→必見の海外ドラマ『倒壊する巨塔-アルカイダと「9.11」への道』“THE LOOMING TOWER” 全10話を観たら)。
原作のノンフィクション、日本語訳で上下2巻、購入して上巻だけ読み終えました。


『倒壊する巨塔〈上〉―アルカイダと「9・11」への道』
ローレンス ライト(Lawrence Wright )著
平賀 秀明  翻訳  白水社 刊


ドラマの第1話は1998年の東欧でのCIAの作戦のシーンの後、2004年の「同時多発テロ合同調査」でのアリ・スーファン(FBI特別捜査官)の証言のシーンへ続きますが、この原作では、1996年、FBIのダニエル・コールマンがCIAの支局に出向し、「最近活動の目立つとある資金提供者」であるウサマ・ビンラディン(ウサーマ・ブン・ラーディン Osama bin Laden)を捜査対象とし、アルカイダの危険性を察知、何度も報告をあげるが、上司からは何の返事もなかった、というのがプロローグになっています
そして第1章は、1948年、エジプトの作家兼教育者サイイド・クトゥブ(Sayyid Qutb)が大型客船でアレキサンドリアからニューヨークへ向かう場面から始まります。
サイイド・クトゥブは、のちに「イスラム原理主義」の源流となる思想を唱えたといわれる人ですが、この時はまだ、

「アメリカにむかうごく普通の留学生のように、奨学金をもらい、食べて寝るだけの生活を送るべきか、それとも特別な暮らしを目指すべきか」
「多くの罪深い誘惑に直面しても、イスラム教の教えを堅持すべきか、それとも見渡す限りの誘惑にそのまま浸ってみるべきか」

(『倒壊する巨塔 上巻』P.16より)


などと思案しています。この時サイイド・クトゥブは42歳でしたが、アメリカの文化や人種差別の実態に触れるうち、「イスラム教の教えを堅持」の方に大きく傾いていったようです。それがやがてアルカイダ以前の、思想的な根っこになっていきます。
ドラマでは9.11同時多発テロに直接つながるようなエピソード中心でしたが、こちらはもっと時間をさかのぼってアルカイダの思想の発生のようなところから語られます。

ウサマ・ビンラディンやアイマン・ザワヒリ(ドクター・アイマン・ムハンマド・ラバイエ・アル=ザワーヒリー Dr. Ayman al-Zawahiri)に関しても家系から始まって親の事業、家族、子供時代の性格、教育方針まで詳しく言及されています。
ビンラディン家とサウジアラビア王家の関係がどうやって築かれたか、なども詳しく、興味深いものになっています。

そして、各章末には注があり、本文の記述に関する出典と補足が詳しく載っています。
これがすごくて、誰かが言ったとされる言葉の出所がどの情報によるものか、どこに載っていたものか、あるいは誰へのインタビューによるものかなどが、ささいなひと言と思われるようなものまで記載されています。数字など異説があるものはそれも載っています。
もう圧倒的。
内容が内容だけに、正確さを担保することがいろんな意味で必要だったのでしょうが(説得力とか、場合によっては身の安全とか)、この大部のためにどれだけのエネルギーを注いだのかと想像すると気が遠くなります。使命感と才能と、正確な訓練を経た能力が揃わないとこういった著述はできないだろうなぁと思いながら読んでいました。

上巻ではソ連のアフガニスタン侵攻から撤退、スーダン、ソマリア、アフリカの内戦とアルカイダ、ウサマ・ビンラディンの関わりへと進み、やがてウサマ・ビンラディンはサウジ国籍を剥奪され、それでも国外から王家の腐敗やイスラム聖職者との裏取引を非難しつづけたため、ファハド国王は「あの男をなんとかせよ」と王子に命じ、暗殺計画も検討されたが実行はされず、ビンラディン家に圧力を加え、一族の事業のウサマの取り分およそ700万ドルが没収されることになる。

資金を絶たれ追い詰められたウサマ・ビンラディンですが、一方で故郷に帰りたいと強く望んでいたそうです。ファハド国王には嫌悪感を感じながら、アブドラ皇太子が国王になればサウジに戻れるのではないかと思っていたらしく、アブドラ王子に手紙を送ったりしています。
この時点でウサマ・ビンラディンが「ジハードをやめた」と誓えば帰国を認める、というのがサウジ側の方針だったようです。それを知ったビンラディン家の人々は、ウサマが帰国できるようにと、友人のジャーナリスト、ジャマル・カショーギに頼み、インタビューという形で「ジハードをやめる」という言葉をウサマの口から引き出そうとします(ビンラディンもその言葉を言う意味を自分で知っています)。
オフレコの場ではサウジ国内での暴力を否定するような発言をするウサマ・ビンラディンですが、それを録音はさせず、アメリカに対して「簡単にアラビア半島から追い出してやれる」と、宣戦布告とも取られかねない発言をします。
ビンラディンから言葉を得られないまま帰国前日となり、カショーギは、インタビューを希望するならホテルに電話をくれとビンラディンに伝えます。
そして上巻の最後の一行。

「ビンラディンからはとうとう電話は来なかった」

(『倒壊する巨塔 上巻』P.364より)

ドラマに惹かれて読み始めた原作ですが、ドラマで描かれたエピソードがほぼ無いまま上巻終了。でもだからといってドラマも原作本も価値が落ちるとか面白くないということはまったくなく、むしろ逆で、下巻がこの深さでどこまで行くのか、ドラマがどこにフォーカスしたのか、とても興味深いです。早く読みたい。

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