ジャンル分けするとしたらエッセイ漫画ということになりましょうか。
エッセイというとなんだかおしゃれだったり世の中を見つめる独特な視線、みたいなちょっと鼻につく要素がありがちですが、東陽先生の漫画にそんなものはありません。もっと別の臭いがプンプンしてきます。
1エピソード3ページ構成で、「しょの1」から「ひょの108」(途中で「しょの」から「ひょの」に表記が変わる)までの108作。煩悩の数と同じだそうです。ちなみに雑誌連載時は『東陽片岡煩悩劇場』というタイトルだったようです。
本作によると東陽先生、日常的にホテトルの客になっているようです。登場するホテトル嬢の皆さんの言動がとてもリアルに見えます(風俗とか未経験なので確かなことは言えませんが)。
ホテルの部屋で待っていると、きれいな人もそうでない人も「スケベチャイム」を鳴らしてやって来ますが、きれいな人でも初期の大友克洋が描いていた女性のような方向で、一般女性感、生活感があり、体もリアルにゆるんでたりします。
きれいでない方はもう情け容赦無いほどのリアル感。回想シーンの「あん時ゃひどかった」みたいなところではさすがにこれは誇張してるだろ、というような描写もありますが。
性行為の描写になると、スポーツ新聞の真ん中ページ(まだあるのかあのページ)の風俗レポートみたいなストレートさです。性行為の描写にはフォーマットがあるみたいでちょっとおかしいです。
ホテトル嬢と楽しんだ(り義務的行為を果たしたりした)後は「シアワセのレモンサワー」が定番のようですが、ある時「シークワーサーサワー」の美味しさを知り、「今度からこれにしよ」とか思ったりします。
自転車を買おうとチラシを見ている時も「なんつってもホテトル一回分より高いんだからな」と慎重になります。ホテトル基準の金銭感覚みたいです。昔、道案内をするのにパチンコ屋を基準に説明する友人がいましたが、人にはそれぞれ様々な基準があるようです。
バイクでツーリングの話とかカッコよく爽やかになっちゃいそうなエピソードもありますが、我慢できずにバイクにまたがり走った先はムード歌謡が似合う温泉街で、スナックでご当地ソングを歌ったりご当地風俗を利用したりしてます。
相変わらずの絵の書き込みですが、エッセイ風漫画ということで東陽漫画のシュールさは少なめです(夢や想像でシュールな場面もありますが)。そのぶん文字が多く、読むのに時間がかかりました。そのためコッテリ感は同程度といったところでしょうか。
こういうリアル生活の土台の上にシュールなキャラクターが乗っているのでしょうか。どのくらいリアルかはわかりませんが。
東陽片岡作品ほど紙の本が似合う漫画はないと思いますが、事情により今回は電子書籍版で読ませていただきました。電子書籍でも充分「たみゃらん」でした。
タブレットに表示していたカバー画像を見た妻が「きれいだねぇ」と言ってました。色彩のことを言っていたようですが、後ろの女性たちがみんなホテトル嬢だということは黙っていました。
続けてこれ読み始めました↓
ほどよい男たちのバラード (マンガの金字塔) Kindle版
『やさぐれ煩悩ブルース』ほどではないけれどセリフの文字数はかなり多いです。マンガの書き方の本に「背景を描き込みすぎない」「ネームは少なめに」と書いてあるのに「俺は正反対のことしてるなぁ」とご本人キャラが言ってました。寝っ転がって。