日々棒組み858 ライトバンには三匹の子猫

「ライトバンに猫がいるライトバンに猫がいる」

車で往復小一時間のお出かけから事務所に帰ってきた部長が両手をアルコール洗浄しながら変なことを言い続けている。

「ライトバンに猫がいるんだよ」

連日の猛暑でとうとう頭をやられたのかと遠くから見ていると私を手招きしながら、

日々棒組み858 ライトバンには三匹の子猫

「ライトバンに猫がいるライトバンに猫がいる」

車で往復小一時間のお出かけから事務所に帰ってきた部長が両手をアルコール洗浄しながら変なことを言い続けている。

「ライトバンに猫がいるんだよ」

連日の猛暑でとうとう頭をやられたのかと遠くから見ていると私を手招きしながら、

「寺ちゃん寺ちゃん、ライトバンに猫がいるライトバンに猫がいる」

部長の頭がおかしくなったにしろ本当にライトバンに猫がいるにしろ私はサラリーマン。上司に手招きされたらとりあえずフラフラとそっちに行くように体が出来上がっている。どっちにしろちょっと面白そうだし。
駐車場のライトバンに向かいながら部長が言うには、ボンネットの中に子猫がいるらしい。
ああああ、そういうことか。なんか聞いたことあるぞ、車に入っちゃう猫のこと。
でもすげーな。なんで気づいたんだ。
訊くと、車に乗せてきた人に、「そこに猫の尻尾のようなものが見えた」と言われたそうだ。
猫の尻尾のようなものが車から。

ライトバンはボンネットが開けられていて、上からのぞくと左前輪の内側辺りに小さなもふもふが。
「三匹いるんだよ。子猫が三匹いるんだよ」
暗くて三匹いるかはよくわからなかったが、かなり小さな塊がもぞもぞしている。
早く救出しなければ。

しかし。
上からは手が入らないし、タイヤ側にも何かカバーがあって手を入れて救出することはできない。
どうすれば。

誰かが言った。
「ジャッキで上げればいいんだよ」
なんとなくなんとかなりそうな気もするし、子猫の位置が上昇するだけのような気もする。
と、そこへ。
現場の課長さんが工具をジャラジャラさせながら登場。
ふむふむと状況を確認すると、左前輪の下に手を突っ込み、ふむふむと工具を選び、んぐんぐとタイヤ下のカバーをはずし始めた。
私はほうほうとながめるばかり。
やがてカバーがバカンと半はずしになり、まだ目も開いていないような子猫が一匹二匹、そして三匹。無事救出された。
「あとはよろしく」
『ゴジラVSデストロイア』の高嶋政宏みたいなセリフを残して現場の課長さんは仕事に戻っていった。
車の横に置かれた薄茶色の三匹の子猫は鳴きもせずもぞもぞするばかり。

残されたのは子猫の面倒なんかみたことない部長と私とその他野次馬二名。
とりあえず、
「ダンボールにでも入れておくか」
部長が言うのでそうした。

というようなことがあったのが夕方の4時過ぎ。なんだけど。
俺、この車、午前中に2時間くらい乗ってたんだよね。
その時どうだったんだろ?まさか乗ってたのか子猫たち。
本当は四匹乗ってましたとかやめてよね(「四」から一本抜くと「匹」だね)。

気になる子猫たちのその後ですが。
救出した現場の課長さんを親だと思いこみ、工場のすみっこに小さな家を作ってもらって幸せに暮らしています。
というのはもちろん嘘で。
目撃者の証言によると、日が暮れる頃に母親らしき猫が現れて、同じ敷地の建物の向こうに三匹を連れて行ったそうです。
きっと元気に育ってまた思い出のライトバンに潜り込むことでしょう。
ってそれはやめてくれよな。

blinktasu
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