今村夏子 小説『こちらあみ子』を急遽読んだら

Amazonプライムビデオに「見放題が終了間近の映画」というリストがあって、見放題のうちに観ておくべき映画はないかと時々眺めるのですが、その中で気になったのが『こちらあみ子』でした。「見放題終了まであと8日」。
原作があるようですが、どんなんだろ?とちょっと再生。
ちょっと変わった女の子のちょっと変わった日常のエピソード、騒動は起きるけど優しく微笑ましい、そんな映画かと思って10分くらい観てましたが、止められなくて観続けていたら全然そういう話ではないとだんだんわかってきて、ハッと気づいて再生を止めました。
原作読まなきゃ。

「原作が優れているからこそ映画化される。だから原作がある映画は観る前に原作を読む」宣言をいつだかした手前、そして「映画鑑賞より読書が好き」宣言もしたような記憶もうっすらある私としては先に原作小説を読まないわけにはいかなかいのだ。
しかも今回は八日以内に原作を読み、映画も観なければならない時間制限付き。見放題が終了しちゃうからね。

こちらあみ子 (ちくま文庫)

急ぎなので電子書籍にすれば今すぐ読み始められるわけですが、今回は紙の本(文庫)にしました。
Amazonの商品ページに作者のこんな言葉が紹介されていたからです。
「いつか、たった一人の読者の手によって、ボロボロになるまで繰り返し読んでもらえるような物語を生み出すことができたら、どんなにか幸せだろうと思っています。(後略)」

電子書籍はボロボロにならないからね。紙の本で買いました。
それと最近ちょっと紙の本へ回帰してるんですよね。
電子書籍の便利さ、都合の良さは重々承知しており、電子書籍重視に傾いておりましたが、人生の大半を紙の本と関わってきた反動ですかね。
作者の言葉はこの後作家としての覚悟みたいなことにつながるのですが、興味のある方はAmazonの紹介ページを参照してください。私はちょっと刺さりました。

というわけで日曜日の午後三時に文庫本が到着。すぐ読み始めました。
そうです。そのために終盤まで読みかけだった船戸与一『流沙の塔』(下巻)を昼間のうちに読了しておいたのです(ちなみにこちらは電子書籍)。

文庫本で約120ページほどなので夕方には読み終えました。

主人公あみ子は診察すれば「〇〇症候群」みたいな呼び方で診断されるであろう、生きづらい子です。
本人は心の赴くままに行動しますが、周囲の扱いはまちまちです。わかりやすくからかう子もいますが、おおむね暖かく、というか無難に関わっているようです。母親は「あみ子さん」とさん付けで呼んで、なんか距離をとっているというか壁を作っているように感じますがその理由は後でわかります。
お父さんはとても優しいのですがやはりあみ子と距離をとっているように思えます。
誕生日プレゼントに欲しかったトランシーバーをもらいますが、あみ子はこのトランシーバーで誰とも通話することができません(ふたつひと組だったトランシーバーはやがてひとつになってしまいます。電池も切れたそのトランシーバーにあみ子は呼びかけ続けます)。

当初ギリギリのバランスを保っていたあみ子の家庭でしたが、徐々に様相を変えていきます。母は「やる気をなくし」、兄は不良になり、父は事なかれ主義を貫き、あみ子はマイペース。
そんなになっても生活は続きます。

そんなある時、あみ子に素晴らしい才能があることがわかります、なんてことは全く起こらず。あみ子はずっと好きだった男の子にぶん殴られて前歯を折られます。

物語的都合で救われることなくお話は終わります。
でもなんでしょう。冒頭と結末のあみ子の淡々とした日常描写にはとても肯定的なものを感じます。いや、「肯定的」なんてあっさり括るのはおこがましいですね。
いろんな味や匂いや感触が入り混じったなかなか得難い読後感でした。

無事映画も観ました。
見放題終了まであと四日(2015年5月28日現在)

Amazonプライムビデオ →こちらあみ子

映画も良かったです。無料で観れて良かった良かった。

blinksaba

タイトルとURLをコピーしました