「自分は幸せなんだな」という暫定的な結論(その3)

11時少し過ぎに実家に着いた。
葬儀は12時半から。余裕を見て11時半に迎えにきてもらうことになっていたのでちょうどいいなと思っていたら家に入る前にみっちゃんから電話。
「今から行くよ」
移動手段が自転車だけだった頃までしか実家に住んでいなかったので車での距離感はよくわからないが、さすがに早くないか?みっちゃんちは実家から歩いて8分くらいだ。
式場まで今から自転車で行っても間に合いそうな時刻だ。ず〜〜っと上り坂だけど。

見回せば山に囲まれているこの辺り。小学校はそうでもなかったが、中学校はそこそこ坂を登っての投登校だった。高校はさらにその上だ。自転車通学だと行きはきついが帰りはほとんど漕がずに帰宅できる。努も私も毎朝「苦あれば楽あり」人生だった。放課後は柔道部の練習だったので、帰りが楽でよかったといえばよかった。

などと考えていたらみっちゃんの黒い車がやって来た。
助手席にはみっちゃんの双子の兄、まーちゃんが乗っていた。中学生の時一緒に『サスペリア』を観に行って私を恐怖のどん底に叩き落としたあのまーちゃんだ。って話は今はいいか。

「おう、悪いね」
と後部座席に乗り込む。二人とは何年か前の中学校の同窓会で会って以来だ。この双子とは小学校一年生で出会っているので、私にとっては努の次に旧い友人だ。
努と最後に会ったのもその同窓会ということになる。いつだっけあれ?大雑把に「コロナの前」、としか覚えていない。
その同窓会でも努は当たり前にそこにいて、当たり前に普通の会話をした。みっちゃんまーちゃんもそうだが、地元を離れて滅多に帰って来ない私に対して、それが何年ぶりでも昨日も会っていたように接してくれる。なんとも居心地がいい。

柔道部に割り当てられた区民館の駐車場へはやはり早く着きすぎて、1台の車もなかった。車内で待機。
三人で努のことやら知り合いの近況やら昔話やら取り留めもない話をしていると黒いジャンパーを着た男がバイクで駐車場に入ってきた。
なんとなく公務員臭がして、区民館の係の人が何か言いに来たのかと身構えていたらつんちゃんだった。相変わらずいつも笑っているような目で車を覗き込んでくる。

「おう、早いじゃん。俺ちょっと親戚の人に話さなきゃならないことがあるから先行ってるよ。ニュージーランドのこととかあるもんでね。ちょっと歩くけどその道出て曲がったらカインズの前だからすぐわかるら」
と言い残して走り去った。
ニュージーランドのこと?
みっちゃんに訊くと、努は今月ニュージーランドに行く予定があったそうだ。
そうか。
釣りが好きだった努は以前もニュージーランドへ行って散財して楽しんで帰って来たことがあったそうで、今回も楽しみにしていただろうに。無念だっただろう。

軽トラが一台入ってきた。
「あれ、トモヤスじゃにゃあ?トモヤスだら。ああトモヤスだ」
みっちゃんが照準でも合わせるように軽トラの動きを追ってトモヤスを特定する。
トモヤスは中学は別だったが、柔道の練習はしたことがあって、その後高校で同じ柔道部になった。商売用の軽トラで来たらしい。
トモヤスも加わり、四人で「そろそろ行くか」と車を降りる。
うっすらとした雲が漂っているが、気持ちのいい青空で、歩いていてもポカポカ暖かい日和。
少し歩くと林の向こうに富士山が見えた。こんな時だが視界が開けたところで写真を撮る。

式場の玄関前につんちゃんがいて、
「もう受付済ませたから。中でお焼香もできるから入ってな。と、その前に」
高校柔道部同級生としてまとめて出した香典の集金。
「あ!マスクした方がいいかな!」
集めたお札を封筒に納めながらつんちゃんが叫んだ。
トモヤス以外はノーマスク。
なんとなく「いいんじゃね?」という方向に流れそうだったが、
「高齢者が多いだろうからねぇ」
というトモヤスのひと言で流れが変わり、つんちゃんが、
「俺買ってくるよ!」
と目の前のカインズへ。

なんてことになりながらも残された私たちはノーマスクのまま式場内へ。
正面には花に囲まれた努の遺影が、デジタルなスクリーンに映されていた。
お棺のところまで行って顔を見せてもらう。
「ああ、髭剃ってもらっただぁ」
みっちゃんが呟く。
そういえばつんちゃんが送ってくれた写真では無精髭がチラホラしていた。

そんな顔をしみじみ見ていて思った。
努って昔から、おでこの生え際が横一直線だったなぁ。
おでこは一直線で、両側がストンと真下に落ちてもみあげに繋がっている。ギリシャ文字のπを横長にしたような生え際。
お棺の中の顔も、遺影も、見事に横一直線。同年代には「生え際」なんてものと無縁になってしまった者も多いが、努の生え際は一生変わらなかったのだ。
変わらなかったといえば、私は小学校から中学校入学まではちょっと目立つくらい体が大きかったのだが、高校に入る頃にはすっかり成長が止まり、背の順に並んだら真ん中よりちょっと後ろ、くらいになっていた。
中学時代の友人などに久しぶりに会うと「小さくなった小さくなった」と言われたりしていたのだ。小さくなんかなってないけどさ。
そんな中。
努だけは。努ちゃんだけは。小さいままでいてくれた。なんていうか私との相対的なサイズ感を保ち続けてくれたのだ。一生。これが友情というものだろう。

お焼香をさせてもらって、まだ開式まで時間があるので、式場の玄関を入ったところのテーブルに置かれていた思い出の写真を見せてもらった。
ほとんどが大学時代のもののようで、私が一番知らない時期の努だったかも知れない。
さっき生え際の話をしたが、写真の中の努は髪を伸ばしている。中学高校を丸刈りで過ごしていたため、私にとっては珍しい努の姿だ。
そして、私もそうだったが、中学高校を丸刈りで過ごした者は髪を伸ばしてもどうしていいかわからず、なんだか不自然な髪型になってしまうのだ。写真の努は(私にとって)不自然な髪型だったが、どれも楽しそうだった。なんか青春な感じ。柔道部で味わうゴリゴリゴツゴツうぉりゃぁっ!みたいなのとは違う明るく楽しいロッヂでクリスマスを待ってるような青春ね。

マスクを買いに行ったつんちゃんが戻って来て、みんなに配る。
「あれ?あれ!これ小さい?小さい?あ!小さいサイズって書いてある!間違えて買っちゃったよ!ま、いいよね!」
いいよ。
ここまでの仕切りの見事さに感服していたが、つんちゃんのこういうとこなんだかホッとする。隙を隠さない人間は愛されるよねぇ。

皆で小さいマスクを着けて席に着く。席数は限られていたが座らせてもらった。左にみっちゃん、右にまーちゃん。私は双子に挟まれて開式を待った。
他の同期たちも集まってきて、一人だけ、親戚の葬儀で広島へ行っている者を除いて九人全員揃った。
高校時代十二人だった十二人だった柔道部同期。
その同期の葬式は二人目だ。

(つづく)

式場へ向かう途中で撮った富士山。冬場は本当に綺麗に見えます。

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